韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾訴追を受け、早ければ2017年春にも行われる大統領選は、丸1年を迎えようとしている慰安婦に関する日韓の合意に影を落とすことになりそうだ。
立候補が取りざたされている人では、現時点では国連の潘基文(バン・ギムン)事務総長(72)が最も高い支持率を得ているが、潘氏以外の主要な人物は合意は無効、または交渉をやり直すべきだとの立場を取っているためだ。潘氏の次に支持率が高い、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表との差はわずかで、誰が当選するかによって日韓合意の行方が変わりかねない状況だ。
釜山の総領事館前に新たな慰安婦像の計画も
日韓合意は、韓国政府が元慰安婦の女性を支援する財団を設立し、日本側が政府予算から10億円程度を一括で拠出することを前提に、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」とするもの。ソウルの日本大使館前に設置された従軍慰安婦をモチーフにした少女像についても、
「韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて適切に解決されるよう努力する」
としていたが、移設や撤去に反対する世論が根強く、事態は進展していない。それどころか、釜山の総領事館前に新たな像を設置する計画が浮上している。この合意が大統領選でどう影響を受けるかに注目が集まっている。
調査会社の「リアルメーター」が16年12月19日から23日にかけて行った世論調査では、潘氏の支持率は前週比2.8ポイント高い23.3%。文氏は0.6ポイント低い23.1%だった。潘氏が支持率でトップになるのは8週間ぶりだが、その差はきわめて小さい。潘氏は雑誌に「裏金」疑惑を報じられたばかり。潘氏側は裏金の授受を否定しているが、このススキャンダルがどの程度大きくなるかは未知数だ。
3位以下は李在明(イ・ジェミョン)城南市長(52)が2.6ポイント低い12.3%、第2野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)前代表(54)は0.1ポイント低い8.2%の支持を得た。
慰安婦をめぐる日韓合意は両国の首脳による政治決断で実現した側面もある。「朴大統領の功績」に対する反発が強まるなか、日韓合意にも同様に強い逆風が吹いている。文氏は12月15日の会見で、「日本の法的責任と公式な謝罪を明らかにする交渉が必要」だとして、合意内容を認めない考えを明らかにしている。李氏、安氏も合意には否定的な考えだ。
潘氏は15年12月の合意直後には歓迎する声明を出し、16年3月に元慰安婦の女性と国連本部で面会した際も、「合意を評価している」などとして理解を求めた。
与党「非主流派」が離党、潘氏擁立に動く
12月27日には与党「セヌリ党」の中で朴槿恵大統領と距離を置く非主流派議員29人が離党を宣言し、翌月にも新党「改革保守新党」(仮称)を立ち上げる。この新党は潘氏の擁立を目指すという。この新党は潘氏にとっては支持母体になり得る存在で、日韓合意支持のスタンスを覆すように迫られる可能性もありそうだ。
菅義偉官房長官は12月27日の定例会見で、
「日韓それぞれが責任を持って実行していく、このことがきわめて重要だと思う。引き続いて合意の着実な実施のために韓国政府と連携していきたい。内政の件については、我が国政府としてコメントすることは控えたい」
などと従来の政府見解を繰り返した。