アサヒグループホールディングスが、9000億円近い巨額買収に踏み切った。ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)から東欧5か国のビール事業を買い取ることで合意。海外展開を一気に加速するが、業界では「高値づかみ」との見方も多い。
アサヒが買収したのは、英国の旧SABミラー傘下にあったチェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアの事業。旧SABミラーとインベブの合併に伴い、独占禁止法に抵触しないよう売りに出されたものだ。
買収の報に株価が急落した理由
世界のビール業界は、インベブと旧SABミラーの統合で大型再編にほぼめどがついたとの見方が大勢。当面、大きな買収案件が出てこないとみられる中で、アサヒは東欧事業の売却話に飛びついた。
だが、この案件をアサヒと同様に「数少ないチャンス」とみるライバルは多く、入札には海外ビールメーカーや欧米の投資会社など複数社が応札し、激しい争奪戦が繰り広げられた。関係者によると、終盤はアサヒと中国最大手の華潤ビールが競り合い、買収額は当初想定された5000億円程度から、最終的に約8883億円へと大幅につり上がった。
買収が報じられた2016年12月13日、アサヒの株価は急落。市場や業界で「予想以上の買収額。高値づかみの印象だ」と懸念する声が広がったからだ。
アサヒが想定以上の高額になっても買収を押し進めたのは、海外展開で同業他社から出遅れているという事情がある。アサヒが首位を走る国内ビール市場は、もはや大きな成長が見込めない。海外事業の強化が急務だが、アサヒの売上高に占める海外の割合は1割程度と、3割を超えるキリンホールディングスなどと比べて見劣りしている。
スーパードライ「東欧で拡販」の課題
今回買収した東欧事業は、チェコの名門ビール「ピルスナーウルケル」が含まれるなど、ブランド力や現地でのシェアは高い。アサヒは10月にも、旧SABミラー傘下だったイタリアの老舗「ペローニ」などのビール事業を約3000億円で買収している。欧州の拠点を一挙に手に入れることで安定的に収益を確保するとともに、自社のスーパードライも拡販したい考えだ。
しかし、欧州市場は安定しているものの、アジアなどと比べて成長性は劣る。海外展開の実績が少ないアサヒが、東欧事業のブランド力やシェアを守りつつ、欧州での知名度が高いとは言えないスーパードライの販売を伸ばしていくのは容易ではない。また、アサヒは今回の買収費用の一部を借り入れでまかなう計画で、財務が悪化する恐れもある。アサヒの「大勝負」が新たな成長につながるのか、注目される。