覚醒剤を使用した疑いで逮捕された歌手のASKAさん(58)が2016年12月19日、嫌疑不十分で不起訴となり、同日夜に釈放された。
ASKAさんは尿鑑定で覚醒剤の陽性反応が出たことを理由に逮捕されたが、19日の複数の報道によれば、東京地検公安部は「鑑定した液体が被疑者の尿であると立証するのが困難」だとして不起訴処分を決めた。一体なぜこんなことになったのか。J-CASTニュースは20日、薬物問題に詳しい弁護士に話を聞いた。
尿を容器に入れる手元まで確認せず
逮捕当時(11月28日)の報道によると、ASKAさんは同月25日、「盗撮されている」として自ら110番通報した。自宅に駆け付けた警察官は、本人の言動におかしな点があったため、任意で尿を採取。鑑定の結果、陽性反応が出たため、覚せい覚醒剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕した。
しかし、ASKAさんは一貫して容疑を否認。12月19日の複数報道によると、調べの中で「あらかじめ用意したお茶を採尿カップに入れた」と話したという。採尿時には捜査員とASKAさんの妻が背後に立っていたが、尿を容器に入れる手元までは確認できていなかったそうだという。再鑑定も、このときの「尿」が少量だったためできなかったという。
弁護士法人・響の徳原聖雨弁護士は「ASKAさん側の主張もいくつか報道されていますが、あくまで警察側の発表を元にすると」と断った上で、不起訴に至った背景に「警察の甘さ」をがあったのではないかと指摘する。
「採尿時、警察官は通常、尿を出しているところが見える位置に立ちます。後方からであっても手元をきちんと見て確認し、写真や映像にも残す。『自分の尿じゃない』という言い逃れができないよう、徹底するんです。それが今回『お茶』だという主張を覆せなかったということは、そうした手順の中に甘さがあったのかなと思います。警察としては他にも証拠が出てくると考えたのかもしれません」
「お茶」という主張に反論できなくなった
では、勾留中に採尿しなかったのはなぜなのか。徳原弁護士は「いくつか考えられます」とした上で、
「覚醒剤は1~2週間で抜けます。そのため、再検査しようとしたタイミングで捜査機関が手遅れだと判断した可能性があります。もしくは、再検査したけれど結局出なかった。または、警察としては『逮捕時の証拠』があればいいので、そもそも再検査する予定がなかったということもあり得ます」
と解説。再び採尿を求めること自体は可能だというが、「羞恥心を伴う採尿は、人権を侵害するような側面があることも事実。昨今、警察に対する監視の目が厳しい中、任意とはいえ『目の前で出せ』とは言いにくいところがある」(徳原弁護士)という。
逮捕後、ASKAさんの自宅や宿泊ホテルからは物的証拠は見つからず、供述証拠もないため、尿鑑定結果は唯一の証明材料だった。徳原弁護士は、
「警察としては、『お茶』という主張に反論しなければならないけれど、1回目の液体はなくなってしまったので再鑑定はできない。尿を採取した時の映像もおそらくなかったのでしょう。そのため、限りなくクロに近いグレーですが、ASKAさんの言い分が通ってしまい、泣く泣く不起訴にせざるを得なかったのではないでしょうか」
と事情を推察した。
ちなみに、ASKAさんは勾留期限の19日の夜になって釈放された。徳原弁護士はこのタイミングについて「釈放となった場合は遅くても午後一番くらいに出てくる。夜中に釈放されたということは、検察庁としてもギリギリまで。『何とかして起訴はできないか』と悩みに悩んだ結果なんだと思います」と語った。
なお、ASKAさんは20日に更新したブログで「尿を出してしまったら終わりだ。必ず、陽性にされてしまう」と考えて、お茶にすり替えたと告白している。通常のお茶からは覚醒剤成分が検出されることはまずないが、ASKAさんは「実は、陽性になったのには、ひとつの理由があるのです科捜研に間違いはないと思います。ただ、まだ語ることなできない理由があります」とし、お茶が陽性になった「理由」があることを示唆している。