気持ちの良いシャンプーの後で卒倒 「美容室脳卒中症候群」が怖すぎる

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   美容院や理髪店で、仰向けになって髪の毛を洗ってもらう。ゆったりとくつろぐ至福のひとときだが、それが健康を損なう危険につながるとは――。

   英国で散髪によって脳卒中を発症した男性に、理髪店が損害賠償として9万ポンド(約1314万円)を支払うことになり、話題になっている。2016年12月13日付 AFP通信など複数の海外メディアが報道した。

  • 頭を後ろに反らせる姿勢が危ない
    頭を後ろに反らせる姿勢が危ない
  • 頭を後ろに反らせる姿勢が危ない

美容院では何でもなくても、帰宅後に倒れる

   AFP通信の報道によると、英スコットランド南部ブライトンに住む男性デーブ・タイラーさん(45)は2011年に、自宅近くの理髪店で散髪と洗髪をしてもらった。散髪から2日後、商談中に突然倒れ、救急搬送された。病院の医師から「最近、散髪に行きましたか?」と聞かれた。医師は、洗髪の際に首を後ろに反らせる姿勢により血管が圧迫され、血栓ができて脳卒中を引き起こしたと診断した。

   タイラーさんは3か月間入院、退院後も後遺症で歩行の際に杖が必要になった。弁護士をたて、理髪店が頭部を適切に保護することを怠ったと主張。このほど理髪店側が損害賠償支払いに応じた。

   タイラーさんの症状は、医学的には「美容室脳卒中症候群」(ビューティーサロン・ストローク・シンドローム)と呼ばれる。仏の文豪スタンダールにちなみ「スタンダール症候群」ともいう。スタンダールはある聖堂を訪れた時、高い天井や窓に描かれた名画を見上げている最中、激しい動悸に襲われ、卒倒した。この体験を「イタリア紀行」に書き残したことに由来する。

   高い所を見上げる姿勢を続けると、首の動脈が圧迫され脳への血流が止まるので、動悸、めまい、吐き気などが起こる。同じ症状が美容院のシャンプー台の上で起こるのだ。東京医科大学整形外科のウェブサイトでは「スタンダール症候群」の項目を設け、注意を呼びかけている。それによると、発症メカニズムはこうだ。首の後ろ側には脳へ血液を運ぶ椎骨動脈がある。洗髪で長時間首を後ろに反らせていると、この血管が圧迫される。その結果、脳に行く血流が一時的にストップする。血小板の流れが滞り、小さな血の塊の「血栓」がたくさんできる。

   洗髪が終わり、首を元の位置に戻す時、せき止められていた血流が一気に脳へ流れると、血栓が脳の毛細血管に入り、詰まらせてしまう。これが脳卒中だ。頭痛や吐き気、めまい、手足のしびれ、冷や汗、首や後頭部の痛みや違和感が起こったら要注意だ。美容院では何でもなくても、帰宅後に倒れるケースもあり、重症の場合は失神する。ただし、意識障害が残るケースは少ないという。

草むしりや映画館でも気を付ける注意点

   また、美容院以外でも次のような状況は十分に注意が必要だという。

(1)天井の電球の取り替え作業=血栓による卒中を避けるには、ソケットまでギリギリ届くような足場ではなく、余裕を持って取り替えられるようにする。
(2)草むしり=草むしりをする時は一か所に止まって手を伸ばさずこまめに移動して、手元の草だけを取る。
(3)映画館=ときどき、首を元に戻し血の流れを改善するか、首に負担なく見られるようにスクリーンから離れた席で見る。

   ところで、美容院で洗髪する時はどんな点に気をつければいいのか。東京医科大学整形外科の遠藤健司講師は、週刊誌「女性セブン」(2014年10月16日号)で次のようにアドバイスしている(要約抜粋)。

「洗髪のわずか15分程度でも、血栓ができることはあります。もともと小さな血栓ができている人はたくさんいて、血流が悪くなると短時間でどんどん大きくなってしまうのです。ただ、美容院脳卒中症候群の場合、血栓によって脳梗塞を起こすことはまれで、ほとんどが一過性の症状で治まります」
「対策としては、後屈しないように気をつけること。支点を首の根元にすると大きく頭が反ってしまうため、頭の付け根を支えるようにするといい。首の血管への圧迫を避けるために、首を左右に揺らす動作は避けるべきです」
   「めまいや頭痛程度でなら、安静にし、飲酒は控えましょう。しびれが出たり、症状が長く続いたりするようなら病院で相談してください。吐き気や後頭部の痛みになると重い状態です。嘔吐(おうと)があった場合には、すぐに病院へ行ってください。診療科は、頭痛がひどい場合は脳神経外科、めまいや吐き気が強い場合は耳鼻科です。更年期を迎えた方はさらに注意が必要です」

   何より大切なのは、シャンプー中に気になることがあれば、我慢せずにすぐに美容師さんに声をかけることだという。

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