経営難に陥っている仏原子力大手アレバに対し、三菱重工業と日本原燃(青森県六ヶ所村)が出資する方向で調整している。同じ「原子力村の住人」として、世界的に原発需要が低迷する中、手を携えなければ生き残れないところに追い込まれているということだが、核燃サイクル維持のためというのが「本命」との指摘もある。
アレバが日本で一躍、名を知られたのは2011年3月の東京電力福島第1原発事故後の放射能汚染水の処理装置をいち早く納入したこと。ただ、同年6月から運転を始めたものの、トラブルが相次ぎ、機器の修理に伴う作業員の被ばく量も増えるなど評価は芳しくなく、別の装置で汚染水処理ができるようになった9月まで約3か月働いただけで、東電も「事故間もない時期に導入でき、それなりに役に立った」というのが精いっぱいだった。
日本原燃とともに数百億円を出資する方向で検討
この処理装置も手掛けたように、アレバは原子炉の製造だけでなく、ウラン採掘から核燃料の再処理や廃炉技術まで幅広く手がける世界的な原子力総合企業。「原子力ルネサンス」がはやされた2000年代の栄華も今は昔。福島第1原発事故で市場環境は一変し、世界各地で受注の延期やキャンセルが相次ぐなど原発需要低迷のあおりで業績が悪化。特にフィンランドで受注した原発建設の難航などで2015年12月期の税引き後利益が20億ユーロ(約2400億円)の赤字を計上している。
そこで再建策が、実質的に約9割出資する仏政府主導で検討された。固まった内容は、大枠として、原子炉製造子会社のアレバNPと、その他の主要事業を移した新会社に分けるというもの。今回、三菱重工が出資するのは、NPでない方の新会社で、その株式の67%以上を仏政府が保有し、残り部分への出資を海外企業に求めている。三菱重工と原燃はこの要望に応え、数百億円を出資する方向で、保有比率は計10%程度の見込み。他に中国企業なども出資を検討しているという。
三菱重工とアレバの関係は、1991年に核燃料サイクル分野で合弁会社を設立したのを皮切りに、従来から極めて緊密で、2013年に共同開発した新型原子炉「アトメア」がトルコに採用されることも固まっている。世界の原子力業界は、日立製作所・米ゼネラル・エレクトリック(GE)、東芝とその傘下の米ウエスチングハウス(WH)の2グループが双璧で、これにアレバ・三菱連合が加わって3陣営体制になる。ただ、現状は、アレバ・三菱連合の旗色は悪く、ベトナムの計画が16年11月、財政難などを理由に白紙撤回されたほか、トルコでの事業可能性調査(FS)も遅れている。
プルトニウムをどうするか
日本国内では原発の再稼働は遅れ、新設の見通しが全く立たない状況で、原子力産業の苦境が続く。それでも、国際エネルギー機関(IEA)が、2030年の原子力による発電電力量が2013年の1.6倍に増えると予想しているように、「今後の新興国、途上国の経済発展を見通すと、原発に多くを頼らないわけにはいかない」(エネルギー業界首脳)というのが常識。だとすれば、三菱重工としては、「目先、投資の回収の見込みはない」(三菱関係者)としても、世界で原発を売り込んでいくために、アレバに手を差し出すしかなかったというのが、業界の大方の見方だ。もちろん、今後、国内外で増える廃炉ビジネスの分野でアレバが蓄積する知見への期待もある。
ただ、原発の輸出が目的なら、アレバNPに出資するのが筋。事実、約1年前にアレバ救済が話題になった時点で、三菱重工はNPへの出資検討を表明していて、今もその話は続いているとされる。にもかかわらず、原子炉製造を除く新会社に出資する背景に、核燃サイクル維持という狙いがあるという見方が強い。原燃と共同出資というのも、これを裏付ける。
原燃は、青森県六ヶ所村の再処理工場建設で、アレバから全面的な技術協力を受けている。再処理工場は試運転でのトラブルが続くなど完成時期の延期を繰り返していることもあり、アレバとの関係強化が重要と判断したとている。そもそも、アレバは日本の使用済み燃料の再処理も請け負ってきた実績がある。
日本の核燃サイクルは、「要」とされた高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まり、大きな曲がり角を迎えている。2018年は、非核兵器保有国の日本がプルトニウムを持てる裏付けである日米原子力協定の期限で、核燃サイクルのつまずきを受けてプルトニウムをどうするかという問題を突き付けられている。「米国との協定継続の交渉の上で、核燃サイクルの旗を降ろせない事情があり、そのためにも、アレバとの提携が『実績』として重要」(全国紙経済部デスク)という見立てだ。
いずれにせよ、本業である造船の不振や航空機の開発遅れなど経営上の重荷を抱える三菱重工にとって、民間の純粋な経営的判断としては過大とも指摘されるアレバ出資が、苦渋の判断であることは間違いない。