大谷翔平が大リーグに行く可能性は一気に高まった。
二刀流で一時代を築いた若きスターが消えた球界はどんな状態になるのだろう。
2億7千万円でサインしたが「10億でもおかしくない」
驚きが二つあった。大谷の来シーズンの契約に、である。サインしたのは2016年12月5日。年俸2億7000万円だった。
「えっ? それだけ」
第一に驚きは、今年の2億円より7000万円しかアップしなかったのである。
もう一つのハプニングはこれ。
「(大リーグ行きの)自分の気持ちを優先してくれる、との言葉を(球団から)いただいた」
大谷自ら明かした言質だ。
メディアの予想では、来年の年俸は4億円は確実、ということだったし、なかには、5億円も、と見る向きもあった。週刊誌などでは、10億円でもおかしくない、とあおった。
今季はMVPに選ばれ、ベストナインでは投手と指名打者の2部門同時の史上初の受賞を果たした。大試合で重要な働きを見せ、日本ハムの優勝に大きく貢献した。当然の受賞だった。
それだけに30%ちょっとの昇級は意外だった。
ミスター引退の時は王が健在だったからよかった
球団は、年俸アップ+大リーグ行きオプション=17年契約内容、という条件を提示し、大谷がそれを飲んだということと見る。つまり、大リーグ行きオプションを大谷が持つ値段が2億円なり3億円、と解釈できる。
この日本ハムの考え方は大リーグと似ている。
大谷が日本ハムに入団したときの絶対条件は「大リーグでプレー」だった。球団とすれば、もっとも注目された今こそ大リーグに高額で譲れる時、と判断したと思われる。近い将来、海を渡ることは確実なのだから、ビジネスからすれば当然だろう。
大リーグでは、FAで去ることが確実な選手をシーズン中にトレードしてしまうケースがある。日本ハムはヤンキースと親密な関係にあるから、選手の扱いは巧みだ。年俸が高くなりすぎると平然とFAを認めてきた。答えが分かりきっている大谷だけに、無駄な経費を使うわけがない。
大谷は来シーズンを終えたら大リーグに身を移すだろう。
二刀流を絵に描いたように成功させた大谷は、「入場料を払って見たい選手」ナンバーワンである。来年の試合はファンが「記憶に残したい」として球場に詰めかけることは間違いない。一方でスーパースターにもっとも近い選手がいなくなる球界はさびしさでいっぱいだろう。気の抜けたようなプロ野球になるかもしれない。
ミスター長嶋茂雄が現役引退したとき、球界はプロもアマも呆然と立ち尽くした。そのときは王貞治が健在だったから持ちこたえたが、大谷のときはどうなるか。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)