「何が正しいか」という議論にたどりつかない
――皆さんの経験から、「偽情報」による実害が出たことはありますか。
大慈弥 美容医療の分野では、誤った情報に基づいたトラブルは昔からあります。医学的根拠がなく、安全性も確認されていない情報を医師が発信しているのも問題で、うのみにして被害に遭った患者はいまだに多くやってきます。
山田 皮膚科領域、アトピーでは以前、テレビ番組で突然「ステロイドは毒だ」と喧伝されて大変な事態になりました。外来が止まり、患者が「もうステロイドは使わない」「ステロイドの外用剤は悪だ」と怒鳴り込んでくるようになったのです。この情報でステロイドの使用をストップしたせいで、体調が悪化した患者もいます。私も患者も、マスコミ報道の被害者です。だからこそ、医師が「正しい」と考える情報を正確に伝える方法が必要です。強い権力を持つマスコミに対抗し、マスコミ報道を「点検」する別のメディアを持たねばなりません。
塩谷 あるメディアが「A」を持ち上げると、ライバルの別のメディアが「A」を叩いて「B」を持ち上げる。見ていますと、両方とも「ケンカしても視聴率が上がればいい」と思っているようで、何が正しいかという議論にたどりつきません。この辺がメディアの限界と思ってしまいます。今、一番の問題は「がん」の取り扱い方でしょう。「がんは死に至る病」という決定的なイメージはなくなってきました。また、全身の健康度を高めてがんが結果的に良くなるような民間療法は、もっと取り上げるべきです。でも「がんが治る」と言っては大問題。ことにテレビでは、「これですべてが治る」「本邦初」を売りにして視聴率を上げるようではいけません。さらに、ネットの情報はてんでバラバラで「百鬼夜行」のような印象を受けています。
(後編に続く)
(メモ)DAA(アンチエイジング医師団)
「最先端の安全な医学/医療情報の提供と実践」のために結成された医師集団。予防医学/医療、美容、ライフスタイル、コミュニケーションなど幅広い分野から考えられた「前向きに年を重ねるための処方箋」の提案を行っている。
略歴
塩谷信幸(しおや・のぶゆき) 北里大学名誉教授、DAA代表
東京大学医学部卒。東京大学形成外科、横浜市立大学形成外科、北里大学形成外科教授。現在、日本抗加齢医学会名誉顧問を務め、形成外科、美容外科、アンチエイジング医学の発展に尽力している。
山田秀和(やまだ・ひでかず) 近畿大学医学部奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター副センター長
近畿大学医学部卒業、同大学院修了。近畿大学在外研究員(ウィーン大学)、近畿大学医学部奈良病院皮膚科助教授を経て現職。日本皮膚科学会専門医、日本東洋学会指導医、日本アレルギー学会指導医、日本抗加齢医学会専門医。
大慈弥裕之(おおじみ・ひろゆき) 福岡大学形成外科学主任教授・形成外科診療部長
福岡大学医学部卒業。防衛医科大学校皮膚科、北里大学病院形成外科、福岡大学医学部整形外科、福岡大学病院形成外科助教授、ボストンこども病院Brigham & Women's hospital留学を経て2005年より現職。