ふくおかフィナンシャルグループ(FG、福岡市)と十八銀行(長崎市)の経営統合に暗雲が漂っている。ふくおかFGの傘下に長崎県佐世保市が本拠地の親和銀行があり、統合によって長崎県内の融資シェアが7割に達するため、「競争環境が阻害される」と懸念する公正取引委員会の審査が長引いているのだ。
これまで地銀再編の旗を振ってきた金融庁は「人口減少が進む中、共倒れしては元も子もない」と怒るが、競争がなくなって不利益を被る銀行利用者が出る可能性も否定はできず、難解な方程式の答えがなかなか出ていないのが現状だ。
九州・山口地区には、一歩進んだ再編が起きている
人口や経済に成長力ないし「現状維持力」があるかどうかは、地銀再編が進むかどうかと表裏一体の関係にある。トヨタ自動車など世界をリードする企業が集積する中京地区では収益をあげるのに困っている地銀が少ないため、地銀の経営統合がほとんど起きていない。しかし、九州・山口地区では熊本、鹿児島両県のトップ地銀同士が統合するなど、全国的に見ても一歩進んだ再編が起きている。金融庁にとっては「お手本」のような地区と言える。
こうした中で、福岡FGと十八銀行の経営統合は、地銀再編を語るうえで特徴的な内容として「同一県内でしのぎを削ってきた1位、2位行が合併する」ということがある。金融庁が「先行モデル」と位置づけているのもそのためだ。
福岡FG傘下には福岡県内のトップ地銀だった福岡銀行のほか、親和銀行と熊本銀行がぶら下がる。長崎市が本拠の十八銀行(長崎県1位)と佐世保市が本拠の親和銀行(同県2位)は、これまで長崎県内で地域によって「すみ分け」をしてきたのだが、人口減少などによって、そうも言っていられなくなり、互いの領域で激しい営業攻勢も珍しくなくなっていた。
もちろんサービス競争が起きるのは利用者にとって悪いことではないが、消耗戦が続くことで地域の金融機関がたちゆかなくなっては、結果的に利用者にとっても良いことではない。そんな事情もあって関係者が決断したのが、ふくおかFGと十八銀行の経営統合だった。予定では十八銀行が2017年4月にふくおかFGの傘下に入り、2018年4月に十八銀行と親和銀行が合併するとしていた。
他の地銀再編の動きにもブレーキ
ふくおかFGと十八銀行は2016年2月、経営統合で基本合意したと発表。6月に公取に審査を申請、7月に公取の2次審査が始まった。経営統合は公取の審査をクリアすることが前提だが、審査が長引いているため12月に予定していた臨時株主総会を先送りする、と11月10日に発表している。その後も審査が続いているため、「2017年4月の経営統合」は「17年10月」に延期せざるを得ない状況だ。
この間、不幸なことも起きた。16年11月28日、十八銀行専務(59)が長崎市内の自宅マンション敷地で死亡しているのが発見された。地元メディアなどの報道によれば、自宅ベランダから飛び降り自殺したとみられている。経営統合に携わっており、心労が重なった可能性がある。
公取と「ふくおかFG・十八銀行」グループの間では、競争環境を維持するために一部の店舗を別の金融機関に譲り渡すことなどを協議しているとみられている。ただ、店舗といっても物理的な不動産であるだけでなく、長年取引のある顧客がついていて成り立っている。単なる不動産の売却にとどまらず、「地の利」を判断して顧客も移る可能性がある。それこそが公取の審査にかかわる部分だが、それは困るのが「ふくおかFG・十八銀行」グループ。この辺りの協議が難航している可能性はある。
ともあれ、「ふくおかFG・十八銀行」の経営統合計画が発表された後、公取審査で「店晒し」が続くなか、他の地銀再編の動きにもブレーキがかかっているのは事実。日銀のマイナス金利政策による低金利など地銀の経営環境は人口減少以外にも厳しさを増しており、「ふくおかFG・十八銀行」グループは公取の早期の結論を望んでいる。