「トランプ相場」の勢いが止まらない。東京株式市場は2016年12月14日、日経平均株価が前日の終値と比べて3円09銭高い1万9253円61銭で取引を終えた。この日は小幅ながらも、これでじつに7日連続の上昇だ。
そうしたなか、医薬品株がこの大きな波に乗り遅れているきらいがある。
潮目変わった「オプジーボ」騒動
東京株式市場は2016年12月14日、日経平均株価が一時、前日比33円76銭高の1万9284円28銭まで上昇して、年初来高値を更新した。12日に、2015年12月30日以来ほぼ1年ぶりに1万9000円台を回復。その後も勢いは衰えない。共和党のドナルド・トランプ氏が勝利を収めた、米大統領選後の11月10日以降の上げ幅はじつに1900円を超えて、「トランプ相場」に沸いている。
この日の注目は、米国で開催中の連邦公開市場委員会(FOMC)。市場は政策金利の引き上げを織り込み済みだが、その幅については不透明感が強い。イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の判断によっては、現在、史上最高値圏にある米国株が下落。その影響を日本株が受けて上昇基調が止まるとの見方もある。そのため、FOMCの結果判明を前に、積極的な取引を手控えるムードが強まった。
とはいえ、米国のトランプ次期大統領の政策への期待感から、米国の金利上昇と円安進行、米国の株高、さらには原油価格の上昇などを好感して日経平均株価が上昇する流れにあることに変わりはない。輸出関連株や金融株などを中心に、買いが集まっている。
そんな最近の「トランプ相場」にあって、さえないのが医薬品株だ。その背景には、「薬価の改定」がある。潮目が変わったのは11月。薬価の50%引き下げが決まった、「オプジーボ」騒動だ。
「クスリの値段が高い」との指摘は根強い。抗がん剤のオプジーボは、免疫細胞を活性化させて末期ガンを治療する新薬だが、11月24日、厚生労働省は1人あたり年間3500万円かかるオプジーボの薬価を、「市場拡大再算定の特例」制度を用いて50%引き下げるよう告示した。
財務省と厚労省は、2017年度の社会保障費の自然増を6400億円から5000億円に抑えたい考えを示しており、オプジーボの値下げで100億円以上の抑制につながる見込みとされる。製造・販売元の小野薬品工業はこの告示を受け入れており、2017年2月にもオプジーボの薬価(1瓶100mg)は現行の73万円が「半額」の36万5000円になる。
小野薬品工業の株価は、厚労省の告示後に下落。12月8日に、年初来安値の2347円05銭を付けた。じつに、4月12日に付けた年初来高値(5880円)の半値以下にまで急落した。
買うのをためらう投資家
医薬品株に、さらに値下がり圧力をかけたのが、政府が2016年12月7日に開いた経済財政諮問会議。ここで「原則2年に1度」となっている薬価の改定を「毎年行う方向」とする考えを打ち出したことがある。抗がん剤の「オプジーボ」の価格が半額になることを踏まえて、諮問会議では医薬品市場の実勢価格の変化などに応じて「全品」を対象に「毎年」改定するよう、提言が示されたが、結論は12月下旬まで持ち越されている。
薬価が下がれば、患者やその家族にとってはうれしいが、製薬会社などは売り上げが落ちる懸念がある。これが株価急落の、直接の原因とみられる。
再生医療の関連株に投資する、ある個人投資家は、「新薬の開発コストの回収が遅れたり、赤字になったりするリスクが高まるので、買うのをためらう投資家は少なくないと思う」と話す。
ただ、SMBC日興証券株式調査部のシニアアナリスト、中澤安弘氏は「医薬品株は伸びるトレンドにあります」という。高齢化社会の進展で、医療技術や医薬品の開発、創薬は成長が見込める有望な市場にあるというわけだ。
この1年を振り返ると、もともと超低金利の局面で、医薬品株や食品株などは買われていた。それが最近の1か月は「トランプ相場」でドル高円安が強まり、さらに原油高もあって金融株などが値上がりの中心にある。そうした中での「薬価改定」で、「(伸びていこうとする)頭を抑えられていました」と話す。
中澤氏は12月13日のJ‐CASTニュースの取材に、「(この日は薬価改定の対象が)全面改定から、(改定の対象となる医薬品を限定する)部分改定に見直されるとの報道で、リスクがやや遠のいたと判断されて、『買い』が入ってきました」とも話した。