朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾訴追案が国会で可決されて職務停止状態になっている「政治の空白」を狙ったかのように、北朝鮮が挑発を強めている。
朝鮮人民軍の特殊部隊が、朴大統領が執務している大統領府(青瓦台)を模した建物を襲撃・爆破する訓練を行い、その様子を金正恩朝鮮労働党委員長が笑顔で視察した。この部隊の主なミッションは、青瓦台や韓国政府といった「人間のくず」を「除去すること」だというから穏やかではない。「死に体」になったとは言え、大統領に対する事実上の暗殺作戦を誇示した形で、韓国側は強く反発している。
訓練見た正恩氏は「豪快に笑う」
朝鮮中央通信や労働新聞といった国営メディアが2016年12月11日に報じたところによると、正恩氏が視察したのは「朝鮮人民軍第525軍部隊直属特殊作戦大隊」の戦闘訓練。記事からは訓練の日付は明らかではないが、朴大統領の弾劾訴追案が可決された12月9日午後にタイミングを合わせて実施した可能性もある。
国営メディアは訓練の様子を伝える大量の写真を配信。写真からは、訓練では特殊部隊がヘリからパラシュートで降下して青瓦台を模した建物に突入し、内部を制圧。部隊脱出後は離れた場所からロケット砲を撃ち込んで炎上させるという内容だと分かる。
朝鮮中央通信によると、正恩氏は訓練の様子を見て、
「すばらしい、敵が反抗はおろか身を隠す暇もないだろう」
と言いながら「豪快に笑った」という。これに加えて、正恩氏は
「特殊作戦部隊の戦闘員たちが南朝鮮を活躍舞台にして果敢な戦闘行動を展開するには行軍訓練、射撃訓練、水泳訓練、自然界線克服訓練と野戦生存能力を培うための訓練を実戦の雰囲気の中で度合い強く行って遊撃戦の達人にしっかり準備すべき」(編注:日本語版原文ママ)
とも指示。「南朝鮮(=韓国)」が作戦の対象だと明言している。
朝鮮中央通信は11月4日にも、正恩氏が、この「第525軍部隊直属特殊作戦大隊」の施設を視察したことを報じている(視察日は不明)。この記事によると、この部隊は
「青瓦台とかいらい政府、軍部要職に居座って千秋に許せない希代の大逆罪を犯している人間のくずを除去することを基本戦闘任務にしている」
といい、正恩氏が「特別に重視し、最も信頼する戦闘単位」だという。
青瓦台では1968年にも襲撃未遂事件
聯合ニュースによると、韓国統一部の鄭俊熙(チョン・ジュンヒ)報道官は12月12日の定例会見で、訓練は北朝鮮体制の健在ぶりを誇示するために行われたとの見方を示しながら、「強く糾弾する」と述べた。大統領権限を代行している黄教安(ファン・ギョアン)首相は11日、韓国軍合同参謀本部を訪れ、警戒を強めるように求めた。北朝鮮の襲撃作戦が明らかになったのは、その矢先だった。
青瓦台では1968年にも北朝鮮による襲撃未遂事件が起きている。青瓦台まで1キロほどの距離にあるソウル市内の山にまで北朝鮮の工作員が侵入し、銃撃戦の末に北朝鮮・韓国側合計で100人近い犠牲者が出た。この時ターゲットになったのが朴大統領の父親、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領だった。