たばこが健康に悪いことは百も承知なのに吸い続ける人にショックな報告が発表された。50歳未満の喫煙者は同じ年代のたばこを吸わない人に比べ、心臓発作(心筋梗塞)に襲われる危険性が8.5倍になるという研究が国際心臓学専門誌「Heart」(電子版)の2016年11月29日に掲載された。
従来の研究では、2~3倍が一般的だったが、それは全年代の平均データ。年代ごとに比較してみると、働き盛りの若い世代に非常に高いリスクがあることがわかった。
意外に危険度が低い数値だったワケは
たばこが心臓に与える悪影響については、国立循環器病研究センターのウェブサイト「飲酒、喫煙と循環器病」で、こう説明している(要約抜粋)。
「喫煙によって血圧があがります。たばこの最大の問題は、心臓や首、脳、手足などの血管を硬くし、動脈硬化を促進することです」
そして、非喫煙者の危険度を1とした場合の喫煙者の危険度として次の数字をあげている。
(1)虚血性心臓病(心筋梗塞、狭心症) 男性(2.8倍)女性(2.2倍)
(2)その中でも特に怖い心筋梗塞 男性(3.6倍)女性(1.4倍)
(3)突然死(心臓発作・脳卒中など) 男性(10.7倍)女性(4.5倍)
これを見ても、心筋梗塞は1~3倍で、「へえ~、そんなものか」と甘く考える喫煙者がいるかもしれない。
禁煙すれば吸わなかった人と同じレベルに改善する
さて、今回研究を発表したのは、英シェーフィールド大学とノーザン・ゼネラル病院の合同チームだ。論文によると、研究チームは「これまで、たばこの害は過小評価されてきた。喫煙者と非喫煙者の心筋梗塞の危険度は、年をとるとともに差が縮まってくる。従来の研究の多くは全世代を対象にしているので、若い世代の危険性が明らかになっていない」と考えた。
そこで、2009~2012年の間に心筋梗塞で治療を受けた1727人を対象に、喫煙のリスクを年齢別に分析した。1727人のうち、現在喫煙中の人は48.5%、元喫煙者は27.2%、非喫煙者は24.3%だった。調査した地域の住民約10万人の喫煙率は22.4%だから、心筋梗塞で治療を受けた人に喫煙経験者が多いことがわかる。そうした地域全体の喫煙率も考慮して分析した結果、次のことが明らかになった。
(1)年齢が若い人ほど、喫煙が心筋梗塞のリスクを高めている。50歳未満では喫煙者のリスクは、非喫煙者に比べ8.5倍に達する。ところが年をとるにつれリスクの差が縮小し、50~65歳未満では5.2倍、66歳以上では3.1倍になる。
(2)喫煙者が心筋梗塞を発症する平均年齢は、非喫煙者や元喫煙者に比べ、10年以上早い。
この結果について、ノーザン・ゼネラル病院のエバー・グレッチ医師は、ロイター通信の取材に対し、こう語っている。
「たばこを吸う人の多くは心臓病の危険があることは知っていますが、たいしたことはあるまいと考えています。今回の研究では元喫煙者も非喫煙者と同じくらいリスクが低くなることがわかりました。このデータを使い、たばこがいかに危険かを喫煙者に深く認識させ、禁煙するよう励ましたいと思います」