抗がん剤はがん細胞以外の正常な細胞にもダメージを与えることが、がん治療の化学療法の大きな課題になっているが、京都府立医科大学の研究チームががん細胞だけに抗がん剤を注入する分子技術の開発に成功した。
研究成果は独科学誌「Angewandte Chemie International Edition」(電子版)の2016年11月24日号に発表された。副作用が少ない抗がん剤の開発に期待できそうだ。
細胞膜を浸透する非常に小さい分子を作製
京都府立医科大学の発表資料によると、研究チームは、乳がんの細胞がある特定の酵素を放出し、増殖に関係していることに着目した。そこで、細胞膜を浸透する非常に小さい分子を作製、この分子が抗がん剤と結びついて酵素を目標にがん細胞内に侵入するシステムを開発した。そして、分子が酵素に到着すると、抗がん剤が放出される仕組みをつくった。いわば、がん細胞にだけ抗がん剤を届ける「ドラッグ・デリバリー分子」だ。
このデリバリー分子と乳がん治療薬を結合した複合体を作り、試験管内で乳がん組織に注入する実験を行なうと、治療薬を的確にがん細胞内に放出していることが確認された。正常な細胞には毒性をほとんど示さなかった。
研究チームの鈴木孝禎教授は、発表資料の中で、「今回開発した分子技術は、乳がん以外の多くのがんでも応用が可能です。臨床実験を進め、副作用の少ない抗がん剤の開発に貢献したい」とコメントしている。