寝つきが悪い、仕事に集中できない、イライラしやすい――それはストレスのせいかもしれない。9割以上の人が「日頃、ストレスを感じている」と答えた調査もある。
多くの人にとって隣り合わせとなっているストレスは、放っておくと心身に悪影響を及ぼしかねない。日常生活の中でどう対処していけばよいのか。
心身の異常をストレスのせいと思わず見過ごしていませんか?
全薬工業が10代以上の男女1691人に実施した2013年のアンケートでは「日頃、精神的な疲労やストレスを感じることはありますか?」の質問に、「大いに感じる」「感じる」「たまに感じる」と答えた男性は96%、女性は98%にのぼった。ストレスを感じる場面の1、2位は男女とも「仕事」「職場の人間関係」の順だ。「仕事」と答えた割合は男性37%・女性20%、「職場の人間関係」は男性22%・女性19%だった。
ストレスが蓄積するとどうなるか。精神科医でかつ18か所の企業の産業医も兼任する奥田弘美氏は「自律神経の乱れや免疫力の低下から、心身に異常が出ます」と説明し、こう続けた。
「心や身体にストレスが発生すると、ストレスと戦おうと交感神経が過剰に興奮するために自律神経系のバランスが乱れます。自律神経は心や身体の調子を整えている大切な神経系で、乱れると様々な症状が出てきます。たとえば胃腸の働きが乱れるため、下痢や便秘、胃もたれ、腹痛などを引き起こしやすくなります。筋肉が過剰に緊張するため、肩こりや頭痛、腰痛がひどくなる場合もあります。血圧や脈拍も上がりますので、高血圧になったり、動悸が出たりする方もいます。
またストレスが長引くと副腎から抗ストレスホルモンが分泌されるようになるのですが、その影響でも様々な症状が出てきます。免疫力が低下するため風邪を引きやすく、また治りにくくなります。原因不明の微熱が続く方もいます。またアレルギーや持病があれば悪化しやすくなりますし、高血糖にもなりやすく、糖尿病が悪化する人もいます」
これらは主に体の症状であるが、ストレスが発生すると睡眠に影響が出ることも非常に多いという。「働く人によく見られるのは、仕事のことが気になるあまり、寝つきが悪くなったり、途中で目が覚めてしまったり、仕事の夢ばかり見て寝た気がしないといった睡眠の質が低下する症状です。そのため脳の疲労が解消できなくなり、『集中力が落ちた』『頭がボーっとして思考がまとまらない』『イライラや不安を感じやすく情緒不安定』といった状態を訴える人も多いですね」と奥田氏は指摘する。
問題は、心身に異常が出ても、そもそもストレスのせいだとは思わずに見過ごしてしまうおそれがある点だ。奥田氏は、「ストレスが原因で起こる症状(ストレスサイン)にどんなものがあるかを知り、自分に当てはまるものがないかのチェックが必要です。ストレスに早く気づけば、本格的な不調になる前に解消することも可能です。どんな病気も早期発見・早期対処が基本です」と強調する。2015年に新たに厚生労働省が始めたストレスチェックは、自分の状態を測るうえで効果的だ。
ストレスを蓄積しないための絶対条件は?
同時に、ストレスをためる原因になる「NG習慣」を見直すことも大事だ。
「仕事とプライベートのオン・オフの切り替えができず、延々と緊張状態が続くのは問題です。寝る直前までスマートフォンやゲームを続けたり、SNSやテレビ電話で他者とコミュニケーションを続けたりするのも緊張状態を続けることになるので注意が必要です」
と奥田氏は話す。
膨大な仕事量や長時間労働、上司や顧客からの強いプレッシャー、人間関係のトラブルなど過度な緊張状態が長期間続く場合は、特に注意だ。
奥田氏は、「緊張状態が続く場合は、とにかくリラックス時間を意識して増やすことが必要です。もちろん法律で定められた週1日の休日を確保することは必須ですが、どんなに忙しくても自分で『ノー残業デー』を決めて、平日も最低1日は早く帰ってリラックスタイムを作っていただくことを強くおすすめします」と助言した。家族とのんびり団らんしたり、一人でゆったりとマッサージやアロマオイル、ゆっくりと入浴して体を温めたりするのも良いリラクゼーションになるという。
自分なりのストレス解消法を探しておくのも大事だ。ウォーキングやストレッチといった軽めの有酸素運動から、好きな音楽・映画鑑賞、カラオケやピクニック、家族や友人とのおしゃべりまで、自分がやりたいと思えることで、体に極度の負担をかけなければ基本的には問題ない。ストレス解消といっても避けるべきなのは、ヤケ酒や暴食、ゲームや夜遊びでの夜更かし、過剰な喫煙、激しい運動だ。「その時は気持ち良いかもしれませんが、結局体の疲労を増長させることになり、後々体の不調につながってきます」と奥田氏は指摘する、さらに、ストレスを蓄積しないためのポイントを説明した。
「絶対条件は睡眠と食事です。最低でも連続6時間以上の眠りと、タンパク質・炭水化物・脂質・ビタミン・ミネラルをバランスよく1日最低2食は取るよう、心掛けてほしいです。これらができなければ、どんなストレス解消法も無意味になります。脳も自律神経も体の一部ですから、睡眠で休息をとり食事で栄養補給してあげないと正常に働くことができません」
症状が軽ければ、薬局で薬を購入して上手に活用するのも手だ。漢方の中では「抑肝散(よくかんさん)」がストレスを原因とする症状に効くとされている。ひどくなったらくれぐれも無理せず、心療内科や精神科にかかるようにしたい。
奥田弘美(おくだ・ひろみ)氏 プロフィル
精神科医、産業医。1992年、山口大学医学部卒業。
精神科医として臨床に携わるほか、産業医として、18か所の企業でビジネスパーソンの心身のケアに関わり、多様な症例と向き合う。豊富な医療知識と経験を生かし執筆活動も精力的に行っている。
近著は「ストレス・疲れがみるみる消える! 1分間 どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)。その他、「一流の人は、なぜ眠りが深いのか?」(三笠書房)、「図解『めんどくさい』をスッキリ消す技術 仕事、家事、人間関係がすべて楽になる!」(マキノ出版)、「何をやっても痩せないのは脳の使い方をまちがえていたから」(扶桑社)など著書多数。