「健康や医療をもっと身近に」――。こんなコンセプトで運営されていた、医療情報サイト「WELQ」(ウェルク)が今、消滅の危機に直面している。
人の生死に直結する分野を扱いながら、不正確な情報発信を繰り返したなどと、相次ぐネットなどの批判をうけ、運営元のDeNA(東京都渋谷区)は同サイトを一時閉鎖。東京都福祉保健局が同社に事情説明を求める事態となっている。2016年6月の月間訪問者数は600万(ニールセン調べ)とされるサイトが陥った「問題」とは何なのか。
情報の価値判断は読者に任せる
DeNAは16年11月29日、WELQに公開されていたすべての記事を非公開とし、販売されていた広告商品の取り扱いを停止した。
同日公開されたプレスリリースでは、「医学的知見を有した専門家による監修がなされていない記事が公開されていた」と認め、「医師や薬剤師などの専門家による医学的知見および薬機法(編注:旧薬事法)をふまえた監修体制を速やかに整えます」と宣言。
「医学的根拠に基づく監修が必要な記事においては順次監修を行い、皆様に安心してご利用いただける状態にしたのち、WELQ編集部名義で記事を掲載していく」と告知した。
WELQの前身は、14年8月にオープンした医療情報サイト「Medエッジ」(メドエッジ)。Medエッジは16年2月、15年秋オープンしていたWELQに統合された。
同時に運営元も、医療サービスを取り扱う「DeNAライフサイエンス」から、メディア運営を手掛ける「DeNAパレット」に変わった。
DeNAパレットが運営する他のメディアと同じように、WELQの記事は他サイトのコンテンツをまとめて作る「キュレーション」だ。こうした記事は、同社が1本あたりの価格で外部採用するライター(キュレーター)や一般ユーザーの手で作られる。
そして、WELQ運営側は記事の最後に
「当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします」
と免責事項を示し、情報の価値判断を読者に任せていた。
SEO対策で検索上位に
免責事項との関係は不明ながら、記事中の情報は不確かなものも多かった、と指摘されている。たとえば、16年8月に公開された「肩こりがひどいのは病気が原因?気になる怖い病気とセルフ対処法」に、「肩の痛みや肩こりなどは、例えば動物霊などがエネルギーを搾取するために憑いた場合など、霊的なトラブルを抱えた方に起こりやすい」との記述がみられる。
別の記事では、特定の成分について、ガンやインフルエンザ、放射能障害にも効果があると明記されていた。
さらに、そんな記事はたいてい、グーグルの検索結果で医療機関の公式サイトより上位表示された。これを可能にしているのが、検索されやすいワードを記事内に組み込んで表示順位を上げるSEO(検索エンジン最適化)だとみられる。
病名や症状を検索して対処法を調べる人は増えており、上位表示される記事は目につきやすい。アクセス解析ツール「SimilarWeb」で調べたところ、WELQの訪問者数は16年5月から右肩上がりに増えていた。
東京都福祉保健局「薬機法上問題がある」
一方で医療従事者やメディア関係者は、不正確な医療情報を垂れ流しながらアクセス数を稼ぐのは「不誠実」だと厳しく批判していた。16年11月ごろから、こうした声が燎原の火のように拡大。11月26日には「元welqライター」を名乗る人物が、「記事をチェックしている人たちは医療のことも病気のことも知らない」「(ライターは)素人集団に少し医療のことが分かっている人が混ざっている、といった状況」と制作現場の「専門家不在」をブログで告発する事態となった。
東京都もついに動いた。11月28日、都福祉保健局が、前出の薬機法上問題のある記事があった」、として、DeNAの担当者に事情聴取を求めた。
同局薬務課の担当者によると、きっかけは音喜多駿都議の通報。薬務課は30日16時半までにWELQ側と意見交換はできていないものの、
「(記事に)特定の商品名を出しており、『情報サイト』というより広告に該当する可能性が高い。まずは『誰が広告主なのか』事実確認をしたい」
としている。
薬務課は、WELQについて、「存在を知ってはいたが、記事の内容まで注意深くチェックできていなかった」と明かした。