アイドルのコンサート衣装にデザインされていた赤十字マークが、後日その模様をテレビ放送した映像では消えていたと、ツイッターで話題になった。
実は赤十字マークの使用方法には規定があり、安易に使えない。普段から「ニセモノ」が世の中にはびこると、災害など緊急時に本物の赤十字が見分けられず、混乱が生じる恐れがあるからだ。日本赤十字社(日赤)はJ-CASTヘルスケアの取材に対し、「使用のルールはあまり知られていないのではないかと思います」と話す。
病院や薬局も使ってはならない
2016年10月28~30日に代々木第一体育館で行われたコンサートイベント「日テレ HALLOWEEN LIVE 2016」の模様が16年11月26日、日本テレビのCSチャンネル「日テレプラス」で放送された。イベントに参加し、テレビ放送も見たというツイッターユーザーの報告によると、イベントに出演したアイドルグループ「℃-ute(キュート)」のメンバーが赤十字マークをデザインした帽子を着用していたが、放送ではマークが消されていたという。ユーザーはマーク入りの帽子を被ったコンサート当時のメンバーの写真と、マークが消されたテレビ映像を撮った写真とを並べて投稿した。これには「℃-uteの赤十字、編集で消してるのかな」「帽子の赤十字のマークを全部削除したのか」といった返信が寄せられた。
J-CASTヘルスケアは、℃-ute所属事務所のアップフロントプロモーションと日本テレビに対し、「衣装にもともと赤十字マークはあったのか」「テレビ放送時はマークを消したのか」について、11月28日から複数回電話で問い合わせたが、いずれも「担当者がいない」との返答で、折り返しの連絡もなかった。
赤十字マークの使い方は、国際条約と法律で厳しく定められている。日赤のウェブサイトでは「知っていますか? このマークの本当の意味」というパンフレットを公開し、マークの使用に際しての注意を呼び掛けている。
パンフレットによると、赤十字マークは「戦争や紛争などで傷ついた人びとと、その人たちを救護する軍の衛生部隊や赤十字の救護員・施設等を保護するためのマーク」であり、「紛争地域等でこの赤十字マークを掲げている病院や救護員などには、絶対に攻撃を加えてはなりません」。これはジュネーブ条約で国際的に定められている。
同条約では、マークを使う権利が与えられていない場合の使用を禁止している。「赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律」でも、赤十字マークは「みだりにこれを用いてはならない」と定めがある。日本で使えるのは日本赤十字社や自衛隊の衛生部隊といった特定の組織だけで、それら以外は個人や企業だけでなく、病院や薬局も使ってはならない。違反した場合、6か月以下の懲役か、30万円以下の罰金が科されると同法は規定している。
使用制限を知らずに使っているケースが多い
日赤広報室の担当者は「規定に反してマークが使用されていた場合、まずはルールの周知をしつつ、使用中止を求めます」とJ-CASTヘルスケアの取材に答えた。いきなり法的措置を取らないのは、「マークに使用制限があると知らずに使っているケースが多いため」だという。使用者が規定を理解し、使用をやめれば基本的に措置は取らないが、呼びかけても改善がなかったり、一度改善されても再び使用されたりしたら、何らかの措置を取る可能性があるという。
例外的に、あらかじめマーク使用の申請を受けて日赤が許可を出す場合もあるが、日赤担当者によると、国民体育大会や高校総体の応急救護所といった場合に限定されているという。
マークの使用が厳しく制限されている理由について、パンフレットには「『赤十字マーク』が日頃から不適切に使用され世の中に氾濫すると、赤十字マークに対する理解が誤ることになり、戦争や紛争時に救護活動を行う軍の衛生部隊や赤十字国際委員会の活動等を適切に保護することができなくなってしまいます」と説明がある。
担当者によると、赤十字病院は有事の際に動く救護団体としての役割を持つ。紛争や災害でライフラインが途絶え、一般の病院の機能がストップしても、赤十字病院のスタッフが臨時で現地に救護所を設置して傷病者に対応する。最近ではシリアの内戦や、国内では熊本地震で、赤十字社のスタッフが駆けつけた。
世の中で自由に赤十字マークが使われていると、こうした状況になった時に「どこが赤十字社で、傷病者を受け入れてくれるのか、紛争時はどこを絶対に保護しなければいけないのかが分からなくなり、混乱を招くおそれがあります」と担当者は説明する。