子どもの視力の低下が問題になっているが、小児弱視の改善には、代表的な治療法の「アイパッチ療法」より、タブレット型端末「iPad」でアドベンチャーゲームをさせる方が効果はあがるという研究がまとまった。
アイパッチは片目を覆い、もう片方の目で見ることで視力回復を図る方法だが、嫌がる子どもが多い。楽しみながら視力が改善するならいうことなしだ。
片目を覆う「アイパッチ療法」は幼児が嫌がる
医療法人・医新会のウェブサイト「小児の弱視」によると、「弱視」とは、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても視力が出ない目のことをいう。裸眼視力が0.1以下であっても、矯正して1.0以上の視力が出れば弱視ではない。
幼少期に何らかの原因で細かい物を見るための脳神経の働きが十分に成長せず、鮮明な像が網膜に映されなくなる症状だ。原因は大きく分け、(1)未熟児網膜症など生まれつきの障害(2)遠視や乱視などの屈折異常のため視機能の発達が途中でとまる、の2種類あるが、小児弱視で一番多いのは後者だ。
そこで、標準的に行なわれる治療法が「アイパッチ療法」だ。視力に左右差がある場合に、良い方の目(健眼)にアイパッチをすることで悪い方の目(弱視眼)だけで物を見て視力の発達を促す。また、健眼にアトロピンなどの目薬を入れ、一時的に見えにくくして、悪い方の目で見る方法もある。
いずれにしろ、1日に数時間、何週間にもわたって行なうので、嫌がる幼児が多く、親が付きっきりでそばにいて面倒をみる場合が多い。
今回、アドベンチャーゲームの治療法の研究をまとめたのは、米国テキサス州の非営利団体・網膜財団眼科研究所とテキサス大学の合同チームだ。米医師会機関誌「JAMA眼科学」(電子版)の2016年11月10日号に発表した。
論文によると、研究チームは4歳から9歳までの子ども28人(男子21人・女子7人)を2つのグループに分け、次のような治療を行なった。
(1)通常のアイパッチ療法を1日に2時間、2週間続ける14人。
(2)両目でiPadを見ながら、「ディッグ・ラッシュ」というアドベンチャーゲームを1日に1時間、2週間続ける14人。
両目でゲーム画面を見るのでバランス良く改善
そして、実験前と後に28人の子どもの視力や立体視能力など目の機能を検査した。視力は、0.1~1.0などの通常の裸眼視力数値ではなく、より厳密に測定する「対数視力」の数値を使った。
その結果、アドベンチャーゲームをした子どもは、対数視力が平均で0.15向上した。一方、アイパッチをした子どもは対数視力が0.07向上した。改善した割合は、アドベンチャーゲームの方が約2倍高かったことになる。立体視の機能もアドベンチャーゲームの方が向上した割合が高かった。
2週間の実験終了後、アイパッチをした子ども14人にもアドベンチャーゲーム療法を2週間続けさせると、最初にゲームを行なった14人と同レベルにまで視力が改善した。アドベンチャーゲームの効果が再確認されたわけだ。
この結果について、研究チームのクリスタ・ケリー医師はこう語っている。
「アイパッチ療法は長い間、小児弱視の標準的な治療法でしたが、常に両方の目の視力が均等に改善するとは限りません。両目でiPadの画面を見ながらゲームを行なうと、コントラストが高い画像を弱視眼がとらえ、コントラストが低い画像を健眼がとらえ、平均的なグレーゾーンの画像を両目でとらえます。このため、バランスよく視力の改善が図られているとみられます。iPadのアドベンチャーゲームは、弱視治療の有力な選択肢の1つになるでしょう」