2016年のプロ野球は大谷翔平フィーバーで幕を閉じた。パ・リーグのMVPに選ばれ、二刀流の大成功を印象付けた。新時代到来である。
大谷のMVP得票は圧巻だった。記者投票で行われた選考は、有効投票数254のうち1位票(得点5)253。残る1票は2位(同3)。1位120票だったセ・リーグの新井貴浩(広島)の2倍を超えた。
勝負どころでの投球、打撃が光った
MVP発表は11月28日だったが、記者投票はとっくに締め切られている。公式戦とクライマックスシリーズまでの結果で、日本シリーズの評価は含まれていない。大谷の日本シリーズでの活躍は、実は選考材料ではなかったわけで、投票記者はロングランの数字を評価したのである。
大谷受賞は①投手成績②打者成績③注目度の合わせ技だと思う。
今季の大谷は投手として21試合に登板し、10勝4敗(完封1)、投球回数140、防御率1.86。打撃成績は104試合、打率3割2分2厘、22本塁打、67打点。
この成績は投手、打者の記録を個別に見ると、歴代の受賞者と比べ見劣りする。
たとえば投手。「低い」といわれたのは14年の巨人・菅野智之(12勝)、12年の日本ハム・吉川光夫(14勝)、1999年のダイエー・工藤公康(11勝)がある。ただし、いずれも防御率のタイトルを獲得。「優勝に多大な貢献」と評価された。大谷は素晴らしい防御率だったが、規定投球回数を投げていない。
打者だけの成績だと、打席382と少なく、規定打数に遠く及ばない。
しかし、MVPは「優勝貢献」が高く評価されるタイトルで、大谷は勝負どころでの投球、打撃が光った。さらに165キロの剛球を投げ、ファンを大いに湧かせた。
従来型の常識を打ち破っての受賞
ただ気になったのは先週25日に発表されたベストナインで、大谷はパの投手と指名打者(DH)の両部門で選出されたことである。
このタイトルは年間を通じてもっとも優れた成績を残したことがポイントで、優勝貢献を最大ポイントとするMVPと違う点である。つまり規定投球回数、規定打席数をクリアすることは絶対条件だった。それにタイトルが絡む。
今季の投手タイトルは最多勝は15勝の和田毅(ソフトバンク)、防御率1位は2.16の石川歩(ロッテ)、勝率1位は800の千賀滉大(ソフトバンク)、奪三振1位は216の則本昆大(楽天)。
打撃部門では首位打者が3割3分9厘の角中勝也(ロッテ)、本塁打王は39本のブランドン・レアード(日本ハム)、打点は110の中田翔(日本ハム)。
大谷は両方とも及ばない。投手成績に打撃成績、その逆も影響してはならないのがベストナインとMVPのさらに大きな違いでもある。
「受賞は思ってもいなかった。規定(投球回、打席数)に達していませんでしたから」
大谷はベストナインの結果を聞いてそうコメントした。選手は試合出場を最大の目標としているからである。次に投手ならイニング数、打者なら打席数を目指す。だから談話はそれが前提にあったことを示している。
それでも大谷が史上初の2部門選出をやってのけた。好成績を残した選手は大谷フィーバーに圧倒されたことになる。大谷は二刀流の論議を実力で封じたわけで、プロ野球に新しい時代の到来といえよう。投票はその現れであって、従来型の常識、つまり評価ポイントが変わったことでもあった。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)