答弁の「安全運転」ぶりに定評がある菅義偉官房長官が2016年11月25日夕方の定例会見で、珍しく答弁に詰まる場面があった。
南スーダンで行われている国連平和維持活動(PKO)に派遣されている自衛隊の部隊に新たに付与された任務「駆けつけ警護」が、英語の仮訳では「kaketsuke-keigo」とローマ字表記されていることについて、「英語があるとは承知していない」などとしどろもどろになってしまった。政府は「適切な語を用いて説明してきている」と答弁してきているが、用語を政府として定めないことで「概念として明確ではなく、外国人には理解されない」という指摘もある。
安保法制懇の報告書は「kaketsuke-keigo」
このローマ字表記の「kaketsuke-keigo」が登場するのは、集団的自衛権の行使を認めるように憲法解釈を変更した14年7月1日の閣議決定だ。この中に「いわゆる『駆け付け警護』に伴う武器使用」という文言があり、外務省のウェブサイトなどで公開されている英語版では、
「use of weapons associated with so-called "kaketsuke-keigo" (coming to the aid of geographically distant unit or personnel under attack) 」
という表現になる。丸カッコ内で「攻撃を受けている、地理的に離れた部隊や隊員を助けに来ること」と説明しているものの、直接「駆けつけ警護」に対応する英語の用語は見当たらない。閣議決定のベースになった安倍首相の諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」 の報告書にも、kaketsuke-keigoの表記と、同様の補足説明がある。
民進党議員「そもそも概念としてそれが明確なものではなく...」
この問題は民進党の逢坂誠二衆院議員が16年11月15日に質問主意書で指摘し、日本維新の会の浅田均参院議員も11月22日の外交防衛委員会で取り上げた。逢坂氏は主意書の中で、
「適切な、政府として公式なものとして定めた英訳を作成する意思」
を質した上で、
「適切な英訳も用いず、日本語をローマ字に直しただけの表記を政府内の文書に使用するということは、そもそも概念としてそれが明確なものではなく、国連や諸外国の関係機関で勤務する外国人にはなおさら理解されないものである」
と、用語を定める必要性を強調した。
これに対して、11月25日に閣議決定された答弁書では、「現時点」では「政府として公式のものとして定めた英訳を作成する必要があるとは考えていない」とした上で、その理由を
「政府として国際連合や諸外国に対しては、様々な機会を捉えて、駆けつけ警護の内容についてそれぞれの機会に応じて適切な語を用いて説明しているところ」
などと説明した。
新概念?「そこまでのことではないだろうと思います」
この答弁書が、同日午後の官房長官会見でも話題になった。フリージャーナリストの安積明子さんが
「これは、『駆けつけ警護』という言葉自体、相当する英語はないということなのか」
と指摘すると、菅氏は
「ちょっとお待ちください」
と困惑。2度にわたって司会者を通じて秘書官からメモが渡されたが、菅氏は
「あのー、そこの中に書いてある通りだという風に思います」
「あのー、英語があるとは承知していない、ということです」
などと曖昧な答弁に終始した。これに対し、安積さんは
「そうすると、駆けつけ警護という言葉は、国際的にも新しい安全保障の概念、ということなのか」
と念を押したが、菅氏は
「まあ、そこまでのことではないだろうと思います」
と述べるにとどめた。
なお、「駆けつけ警護」の任務付与を閣議決定したことを伝える11月14日(米東部時間)のAP通信の記事では
「to help rescue U.N. staff or nongovernment organization personnel under attack(攻撃されている国連やNGO職員の救出を補助する)」
と表現されており、「kaketsuke-keigo」というローマ字表記や、それに対応する表現は見当たらない。