核実験した場合の、日本から輸出済みの原発部品の取り扱いも曖昧
今回の安倍政権の判断の背景として、3点が指摘される。第1は成長戦略。その柱の一つとして「質の高いインフラの輸出」を掲げ、原発をはじめ、新幹線、都市交通、港湾、上・下水道などの技術や設備の売り込みに力を入れている。中国経済に陰りが見られるなど不振の新興国が多い中で、巨大市場として成長を続けるインドの重要度が増しているのだ。
第2は米仏の強い要請。インドで両国が2017年中の着工を目指す原発には日本メーカー製の鋼材が不可欠で、日印の協定が是が非でも必要ということだ。「建設工事から逆算して、今がギリギリのタイミング」(霞が関筋)という。
第3に、対中国の思惑も指摘される。「中国の台頭、とりわけ南シナ海への進出に危機感を強める安倍政権は、インドの取り込みに躍起になっている」(全国紙政治部デスク)ことから、原子力協定でインドとの関係を緊密化しようという狙いだ。
だが、疑念は残る。日本がNPTに加盟していない国と協定を結ぶのは、1972年のフランス、1985年の中国に次ぎ3例目だが、仏中両国はNPT発効当時から「核保有国」としてすでに特別な地位を認められており、実際に1992年にはNPTに加盟もした。これに対しインドは、やはりNPT非加盟の核保有国である隣国パキスタンと対立していて、NPT加盟の可能性は現状では考えられない。つまり、NPTの枠外で、核兵器を放棄しない国であり続ける可能性が高いわけで、そのインドとの原子力協定は、かつての仏中とは次元が異なるとの指摘がある。
実際に、「核実験をしたら協力停止」と言っても、例えば、核爆発の手前の「臨界前核実験」をインドが実施した場合に協力を停止するかは不明。核兵器と言うときに、核弾頭と一体である運搬手段(ミサイル)の技術開発については、日本は異議を差し挟めないなど、「抜け穴」は多い。万一、インドが核実験した場合の、日本から輸出済みの原発部品の取り扱いも曖昧だ。
経済的に、また安全保障上もインドが重要なパートナーであるのは間違いないが、今回の協定がNPTの空洞化を助長する恐れもあり、核拡散防止の実効性をいかに確保していくか、被爆国としての姿勢が問われる、との指摘も出ている。