建設中の整備新幹線の延伸問題が今(2016)年も年末に向け、熱を帯びてきた。北陸新幹線の敦賀(福井県)以西の延伸ルートだ。北陸新幹線は15年3月に長野~金沢間が開業し、22年度末に金沢~敦賀間が完成する予定だが、敦賀から新大阪までのルートが決まっていない。自民党は年内をめどに絞り込む予定だが、政治的思惑も絡み、駆け引きが続きそうだ。
北陸新幹線の敦賀以西の延伸ルートについては、現在、(1)米原(滋賀県)ルート、(2)小浜(福井県)・京都ルート、(3)小浜・舞鶴(京都府)・京都ルートの3候補がある。これまでの検討過程では、琵琶湖の西を通る「湖西ルート」や、小浜から新大阪に直接乗り入れるルートも候補に上ったことがあり、さらに、上記(3)を関空まで伸ばす案まであったが、ようやく、3案にまで絞られてきた。
米原、舞鶴、小浜の3ルートから絞込み
事実上の決定権を握るのは、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)。PTの要請を受け、国土交通省はこのほど、3ルートの概算建設費、費用対効果、所要時間など調査結果を公表した。概算建設費は米原ルート(約50キロ)が約5900億円、小浜・京都ルート(約140キロ)が2兆700億円、小浜・舞鶴・京都ルート(約190キロ)が2兆5000億円となっている。
米原ルートは最も距離が短く、建設費もかからないが、米原~新大阪は東海道新幹線の路線を走るため、JR東海は「ダイヤが過密になる」と難色を示している。北陸新幹線を走らせるJR西日本とJR東海の新幹線運航の制御システムも異なるため、解決すべき課題が多い。
日本海に面した舞鶴ルートは最も距離が長く、建設費もかさむが、「将来的に整備新幹線が山陰地方に延びた場合、舞鶴が接続地点になる」との期待が地元関係者にある。「敦賀~舞鶴間が新幹線で結ばれると、新潟県上越市から舞鶴市まで約370キロの新幹線ネットワークが日本海側にできる」とメリットを強調する。
小浜ルートは距離的にも他の2ルートの中間で、金沢~新大阪の所要時間は小浜ルートが1時間19分で最も速く、舞鶴ルートの1時間31分、米原ルートの1時間41分に対して優位性がある。このためJR西日本は小浜ルートを支持している。
「費用対効果」だけでは決まらない
今回、国交省は所要時間短縮で利用者が得られる便益や事業収益などの総便益を建設費などの総費用で割った費用対効果も発表した。この値が1を下回ると投資に見合わないことになるが、舞鶴ルートは0.7、米原ルートは2.2、小浜ルートは1.1となった。費用対効果を見る限り、舞鶴ルートの劣勢は否めない。
しかし、3ルートの沿線人口は舞鶴市が約8.9万人で最も多く、小浜市の約3.1万人、米原市の約4.0万人を上回る。地元自治体は滋賀県が米原ルート、福井県が小浜ルート、京都府が舞鶴ルートを支持しており、三つ巴の格好だ。とりわけ福井県と京都府は「新幹線が開業すれば、舞鶴市や小浜市付近が関西中心部からの通勤圏となり、地域開発効果が高い」と期待する。
整備新幹線は政府系の独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」(鉄道・運輸機構)が線路やトンネルなどの施設を建設・保有し、JRに貸し付け、JRが同機構に貸付料を支払う「上下分離方式」となっている。建設費は国が3分の2、地方自治体が3分の1を負担する公共事業で、沿線の住民でなくとも無関心ではいられない。
自民党は費用対効果で劣勢な舞鶴ルートを排除することなく、年内をめどにルートを絞り込む方針だ。しかし、与党PTがルートを絞り込んだとしても、今回の決定は来(17)年度予算には絡まない。このためルートの絞り込みは難航し、調整には時間がかかるとの見方もある。