冬の到来とともに体をポカポカさせてくれる料理が欲しくなる。温まる食材の筆頭といえばショウガとトウガラシだが、その2つの食べ合わせが、がんの発症リスクを8割も減らすという研究がまとまった。
トウガラシの辛み成分に発がん性があるのではという指摘もあるが、ショウガの辛み成分と組み合わせると、発がん性が打ち消されるばかりか、相乗効果でがんリスクが劇的に減るのだという。
「胃がん大国」で発がん性が指摘されたトウガラシ
ショウガは特有の辛み成分のジンゲロールが、血流を促進して冷えを改善し、免疫力を高めるといわれ、漢方の生薬にも使われている。
一方のトウガラシの辛み成分のカプサイシンは、満腹感をもたらす働きがあり、一時、「トウガラシ・ダイエット」が流行した。カプサイシンを摂取すると脳の中枢神経を刺激し、アドレナリンを分泌させる。アドレナリンには脂肪分解酵素を活性化させる作用があり、脂肪を盛んに燃焼させる。このため、代謝が活発になり、体温が上昇し汗をかく。辛いキムチをたくさん食べると、体がカーッと熱くなり、汗が噴き出るのはこのためだ。
ところが、カプサイシンには発がん性があるという報告が最近、出されている。キムチをはじめトウガラシ料理をたくさん食べる韓国で、胃がんの発生率が世界トップクラスであることが問題になっていた。2015年8月、韓国の建国大学が、マウスの実験から、カプサイシンががんを誘発させるタンパク質を生み出していることを突きとめた。
このように、食べ過ぎるとがんのリスクが心配なトウガラシだが、ショウガと一緒に食べ合わせると、逆にがんの発症リスクを下げるという研究が食品化学専門誌「Agricultural and Food Chemistry」(電子版)の2016年7月20日号に発表された。研究をまとめたのは中国の河南大学のシェンナン・ゲン博士らのチームだ。
論文によると、研究チームはトウガラシのカプサイシンと、ショウガのジンゲロールが、ともにがん増殖に関連する同じ細胞の受容体と結合する性質を持っていることに注目した。カプサイシンはがんを発症させる可能性が指摘されているが、ジンゲロールは多くの健康効果が明らかになっている。なぜ、2つとも同じがん増殖受容体と結びつくのか、その矛盾を解明しようと考えた。
ショウガ料理にチリペッパーががん予防の食事療法
遺伝子操作で肺がんになりやすくしたマウスを使い、カプサイシンとジンゲロールが、それぞれがんの発症に与える影響を調べた。マウスを次の3つのグループに分け、20週間エサを与え続け、観察した。
(1)カプサイシンだけを含むエサを食べるグループ。
(2)ジンゲロールだけを含むエサを食べるグループ。
(3)カプサイシンとジンゲロールの両方を混ぜたエサを食べるグループ。
その結果、カプサイシンだけを食べたマウスは全員肺がんを発症した。ところが、ジンゲロールを食べたマウスは半数の50%だけが肺がんを発症した。そして、カプサイシンとジンゲロールの両方を食べたマウスは、わずか20%しか肺がんを発症しなかった。カプサイシンとジンゲロールの食べ合わせが、相乗効果を生み出し、がんリスクを8割も食い止めた。
肺がんを引き起こした細胞の病理組織を調べると、カプサイシンだけの細胞は炎症を起こしていたが、ジンゲロールを併用した細胞は炎症が抑えられていた。なぜ、そうなるのかは論文では明らかにされていないが、ゲン博士は論文の最後で誇らしげに「ショウガ料理にチリペッパー(赤トウガラシの粉末スパイス)を豊富に加える食事療法を長く続けることが、がんの発症を下げるという貴重な情報を提供することができました」とコメントしている。