医師が6年前に奈良県警の取り調べ中に急死したのは警察から暴行を受けたからだとして、法医学者が特別公務員暴行陵虐致死の罪による告発状を県警に提出した。
県警は、暴行を全面的に否定したと報じられているが、真相はどうなのか。
右足の膝から足首にかけて、皮膚が赤黒く変色
岩手医科大学の出羽厚二教授(法医学)らは2016年11月15日、告発状提出に当たって奈良県庁で記者会見した。その際に示した写真は、54歳で亡くなった男性医師を警察側が司法解剖したときの鑑定書に添付されていたものだ。これを見ると、右足の膝から足首にかけて、皮膚が赤黒く変色しており、左足との違いがはっきり分かる。
男性医師は、奈良県大和郡山市にあった山本病院(現在は廃院)に勤めており、山本病院は09年に診療報酬詐欺事件で県警に摘発された。その後の調べで、男性医師が06年の手術で患者が肝臓がんではないのに不要な手術を行い、肝静脈を誤って切って患者を死亡させたとして、院長とともに業務上過失致死の疑いで10年2月に逮捕された。
ところが、男性医師は、逮捕から19日後に留置場内で倒れ、病院に運ばれたものの死亡した。当時の報道によると、県警が死因は急性心筋梗塞とし、県警の留置管理室では、「留置管理に問題はないと考えている」とコメントした。これに対し、不審に思った遺族が2013年2月に適切な治療を怠ったとして、奈良県に対し、約9700万円の損害賠償を求めて奈良地裁に提訴し、その後に出羽教授に調査を依頼していた。出羽教授は、07年に起こった大相撲時津風部屋の力士暴行死事件でも、死因を調査している。
出羽教授の会見によると、鑑定書には、頭や胸、腕、足の全身にわたって遺体に損傷があると書かれていたという。男性医師は、亡くなる1日前に急性腎不全と診断されて治療を受けていたが、出羽教授は、男性医師は、警察から自白させるために殴られたり蹴られたりし、その結果として腎不全などの多臓器不全を起こして死亡したと推定していることを明らかにした。