新型のがん治療薬「オプジーボ」が稼ぎ頭となっている製薬準大手、小野薬品工業の株価が低迷から脱せずにいる。オプジーボが有望ながん治療薬であることには違いないのだが、高額批判や競合薬の登場といったマイナス材料から、期待されたほどに業績が向上しそうにない、との見方が広がっているためだ。
オプジーボで一躍「時の会社」になった小野薬品株は足元で、2016年4月につけた年初来高値の半値以下の水準。株価を大きく反転させる材料は見当たらず、株式市場では「次の新薬を生み出すしかない」との声も出始めている。
4月には年初来高値だったが
オプジーボは小野薬品と米ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)が開発し、2014年7月、日本で皮膚がんの一種である「悪性黒色腫(メラノーマ)」の治療薬として承認された。オプジーボの特徴は「がん免疫療法」と呼ばれる治療法で使われる点にある。免疫とは、体の外から病原菌やウイルスが入ったり、がん細胞ができたりした場合に、それらを排除するための体がもともと持っているさまざまな働きのこと。免疫療法は、従来の化学療法などのように直接がん細胞を攻撃するだけではなく、患者が持っているがんを攻撃する機能(免疫機能)を高めるもので、オプジーボはそれに役立つ薬というわけだ。
小野薬品に、医療界のみならず株式市場でがぜん注目が集まったのは、2015年12月に肺がんの8割を占めるとされる「非小細胞肺がん」でも治療薬として承認されたこと。これを受けて利用患者が急増する一方で、小野薬品株は連日高騰した。他の部位のがんにも承認の見通しが出るなかで、期待は持続し2016年4月12日に小野薬品株は年初来高値となる5880円をつけた。
しかし、その後はオプジーボに暗雲がたれこめる。まずはBMSが8月、より幅広い肺がん患者への効果を調べる臨床試験に失敗したと発表したことだ。株式市場では翌営業日にストップ安となるなど、失望売りが広がった。
高額批判の影響
もう一つは「薬価が高すぎる」との批判だ。患者1人当たり年間約3500万円になり、約5万人とされる投与対象全員に使われるとした場合、その薬剤費は年間1兆7500億になる計算で、国の医療費への影響が大きすぎるとの声が上がり始めた。全国保険医団体連合会の調べでは、日本で100ミリグラム当たり約73万円なのに対し、米国で同約30万円、英国では約14万円と、海外での価格が国内より低いことも批判に拍車をかけた。薬価は通常、2年に1度改定されるが、厚生労働省は年間販売額が企業の予測を大幅に上回った場合に薬価を見直せる特例にのっとり、2018年度の次期改定を待たずにオプジーボの価格を2017年度に25~50%程度引き下げる方針だ。
さらに競合薬の出現も小野薬品株の上値を重くする。16年9月に承認された米メルクのがん免疫薬「キイトルーダ」で、年末までに発売される可能性が出てきた。オプジーボには、これまで確認されていなかった重症の糖尿病などの副作用が報告されていることも逆風だ。
11月7日に小野薬品が発表した16年9月中間決算は、純利益が前年同期比94.7%増の231億円と過去最高を更新した。しかし、記者会見した相良暁社長の顔色は必ずしもさえず、「患者の獲得が予定を少し下回っている」と述べた。小野薬品株は11月9日に年初来安値となる2400円をつけた。その後は見直し買いなども入って株価はやや持ち直しているが、市場では「オプジーボ頼みのままでは大きな反転は難しい」との見方も強い。