米国の新しい大統領にドナルド・トランプ氏(70)が決まったことで、ニューヨークやオークランドをはじめ全米各地で抗議デモが相次いだり、ヒラリー・クリントン氏(69)が勝利したカリフォルニア州では米国からの離脱を求めたりと、「反トランプ派」の人々の不満が噴き出している。
そうしたなか、そんな米国を離れて「日本で働こう」と、積極的に米国人採用に動いている日本のITベンチャーが現れた。月間100万人が利用する、転職活動や仕事探しに使える国内最大のビジネスSNSの「Wantedly」を運営するウォンテッドリーがそれ。米国人の反応もいいようだ。
大統領選当日に社内で案が
ウォンテッドリーは、「シゴトでココロオドル人を増やす」をテーマに、既存の求人サイトのように、給料や勤務地、福利厚生などの条件で仕事を探すのではなく、人々の仕事への想いやモチベーションを伝え、そのためにどんなサービスを行っているのかといったストーリーに焦点をあてながら、人と仕事のマッチング情報を提供している。
そんなウォンテッドリーが、「トランプ大統領」の誕生に失望し、海外へ「脱出」しようと考えている米国人に向けて、「Escape from the U.S. now! Let's work together in Japan!」(今すぐ米国を脱出して日本で働こう!)と呼びかける英文の採用サイトを、2016年11月9日に公開した。
米国を脱出したいと考えている人に、社内でさまざまな職を用意。2016年11月13日のJ‐CASTニュースの取材に、ウォンテッドリーは「米大統領選当日にすう勢がほぼ決まってきた段階で、社内で起案され、すぐに準備に入りました。選挙結果が確定した後に公開しました」という。
「ただ、米大統領選の結果や米国の政治について何らかの主義・主張を行う意図は一切ございません」としている。「世の中が大きく変わろうとしている今、日本企業にとっては海外の優秀な人材を獲得するチャンスと考えており、お客様(他社)に海外人材向けの募集を掲載されることを推奨したいと考えました。その際に、当社自身が率先して募集を行い、反応を明らかにすべきと考えたため、今回の取り組みを進めることとなりました。お客様のそういった募集が増えるようであれば、特集を組んで(募集を)呼びかけることも検討しています」と、話す。
新設した採用サイトには、米大統領選の結果にショックを受けている人が「海外に出ようと考えるのは自然」と理解をみせ、「美しく、食事もおいしく、2020年にオリンピックが開かれる日本に引っ越そう」と提案している。
「日本の低賃金で働く米国人がいるわけないじゃん」?
米大統領選の結果を受け入れらない、「反トランプ派」の米国人は少なからずいるようで、米国からの脱出を考えている人たちもいると報道されている。
カリフォルニア州を米国から「離脱」させようという動きを、国民投票で英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた「Brexit(ブリグジット)」をもじった「Calexit(カリグジット)」といい、その言葉が急速に存在感を増している。11月9日には、カナダ移民局のWebサイトにアクセスが殺到してダウンする事態も起きたとされる。ニューヨークを始め、全米各地で大規模な反トランプの抗議デモが続いており、混乱はなお収まっていない。
米国人の日本企業での就職について、ウォンテッドリーは「選挙結果だけで、そこ(脱出)まで極端な動きになるかはわかりませんが、今後の政策運営、政治情勢しだいでは十分にあり得ると考えております」とみている。
ウォンテッドリーの「米国を脱出して日本で働こう!」との呼びかけに、ツイッターなどでは、
「それにしてもなかなか仕事が早いではないか」
「これは、Good Job!!!」
と、「歓迎」の声がみられる。
その半面、
「日本の低賃金で働く米国人がいるわけないじゃん」
「トランプが大統領になった程度のことで逃げ出す人たちが日本の労働環境に耐えられるのかw」
「国籍どこだろうが、米国の技術者が日本のITでなんかアホらしくて仕事できるわけねぇだろ。わかってないよ、この会社」
「低賃金に長期労働で1か月のバカンスなんてもんもない。住まいはウサギ小屋、そうそう地震や台風もあったし、原発事故もあった。さあ、どうだwww」
と、日本の過酷な労働環境を引き合いに、「ありえない」と思っている人も少なくないようだ。
ウォンテッドリーによると、サイト公開後の反応はいいようで、「10名ほどの米国在住の方から応募をいただきました。また、ソーシャルメディアでこの募集が拡散された結果、米国だけではなく、アジアなど他国からの応募も10件近くありました」という。
通常、「Wantedly」への米国からのアクセスは、全体のアクセス数の1%にも満たないが、今回の募集サイトには、「ページへのアクセスのうち15%近くが米国からのアクセスとなっており突出していました」と話す。
もしかしたら、米国人の中には「本気」で日本で働きたいと考えはじめている人が少なくないのかもしれない。