女優の能年玲奈さんが「のん」に改名した後、初の声優主演作品となったアニメ映画「この世界の片隅に」の評判がすこぶるいい。公開されている63館の映画館は満員御礼で、初動の興行成績が全映画のベストテンに入った。
2016年11月13日には広島国際映画祭の「ヒロシマ平和映画賞」受賞が発表されたが、これがまたしても物議を呼ぶことになった。「テレビや新聞が受賞を意図的に報じていない」というもので、何らかの「陰謀」が働いているのではないか、というのだ。
「メディア総スルー」はあったのか?
「この世界の片隅に」は16年11月12日に公開された。ストーリーはのんさんが声を演じるおっとりしていて絵を描くのが好きな「すず」が広島市江波から呉の夫の元に嫁ぎ、空襲などで大けがをしながら終戦後にかけ懸命に生きる姿が描かれている。監督はジブリ映画「魔女の宅急便」などの制作に参加した経験を持つ片渕須直さん。のんさんは役作りのために片渕監督と念入りな調整を行っていて、「広島弁も違和感がないすごい作品」「すず役はのんしかいない」と言われるほど完成度を高めた。映画評論家の町山智浩さんなど多くの専門家からも絶賛され、興行通信社調べによると16年11月12日~11月13日の土日の興行収入が全公開映画ベストテンの10位に入った。
しかしこの映画、公開前からネガティブな噂が付き纏っていた。それは、のんさんの「復帰」初主演なのに、報道するメディアが極めて少ない、というのだ。16年8月下旬に「デイリーニュースオンライン」や「日刊サイゾー」などが、
「能年玲奈が『のん』改名後初仕事もテレビ各社は『業界対応』で完全スルー」
などという見出しで、異常事態を報じた。のんさんは前の所属事務所とトラブルを起こして移籍したため、前の事務所がメディアに圧力をかけているか、メディア側が独自に配慮し報道を控えているのではないか、というのだ。それを信じた人たちはネット上で前の所属事務所やメディアに対する批判を展開し騒然となった。
一方で、それは事実無根だという大きな反発も起きた。8月から9月にかけテレビではNHK、フジテレビ、日本テレビなどが報じているし、朝日、読売、毎日といった全国紙や、共同通信が配信したことで多くの地方紙が取り上げた。スポーツ紙では報知、デイリー、サンスポ、ニッカンも記事を書いている。
そもそもこの映画は、「君の名は。」のように、大手映画会社の東宝が全面バックアップした作品ではなく、制作資金はクラウドファンディングで集め、上映館も63館と少ない。原作も知る人ぞ知る名作だが、知名度は低い。本来ならこうした作品はメディアに相手にされるはずがない。さらに、のんさんは女優であり、女優として「復帰」したのならば別だが、本業ではない声優での主演だ。
「こんなに涙した映画は記憶にない」
そうした中でこれだけの報道があるならば、それこそ「のん」さんへの注目度の高さが分かる、というのだ。掲示板には、
「普通にニュースになってたのにねぇ 。紙媒体もネットでもテレビでもさ。そこそこ報道されても『まだ足りないこれは陰謀だ!!』・・・ そんなウソついてまで擁護したいの?」
などといった書き込みが出た。
これで終了かと思われたが、また「陰謀説」が飛び出すことになった。それは16年11月13日に「この世界の片隅に」が広島国際映画祭の「ヒロシマ平和映画賞」を受賞したのに、テレビや新聞が報じていない、というのだ。この映画祭は広島市の有志によって海外の若手監督を発掘する目的で立ち上げられ、上映し表彰するという活動をしている。「この世界の片隅に」は今回特別上映され、新設した「ヒロシマ平和映画賞」が授与された。ただし、知名度は高いとは言えない。J-CASTニュースが16年11月15日に事務局に「受賞の報道が無いのはなぜか?」と聞いてみたところ、各メディアにプレスリリースを配っている、とし、
「報道して頂きたいという思いはあるのですが、映画祭の知名度の問題や、賞も新設されたものでもありますので、こういう結果になるのはいたしかたない気もします。『陰謀』などというものは全くありません」
と笑っていた。
ともかく、これだけ報道され大ヒットの兆しが出ているこの映画はやはりのんさんの存在が大きく、のんさんがいなかったらこんな素晴らしい映画に巡り合えなかった、という感謝の声もある。ツイッターでは、
「『この世界の片隅に』見終わりました。 開始1秒、のんさんの声を聴いた瞬間、早くも涙が」
「映画館で周りに憚らず、こんなに涙した映画は記憶にない」
「いまだに余韻から抜け切れません。何度も見ることになるでしょう。長く上映してほしい」
などといった絶賛がつぶやかれている。