【チョイス@病気になったとき】(Eテレ)2016年11月5日放送
「あなどれない 疲労」
仕事や家事に育児、介護、人間関係...。ほとんどの人が、毎日何かしらの疲労を感じているのではないだろうか。
疲労は放っておいても解消されず、無理して頑張り続けると命に関わる病気にかかるおそれもある。原因を特定し、きちんと対策を取るのが重要だ。
激務続きで睡眠障害に
会社員の矢口さん(仮名)は、2年前から疲労を感じていた。
責任感が強く多くの仕事を任され、忙しい時は始発電車で出勤し、昼食の時間もない。終電には間に合わずタクシーで帰宅することも。家に着いたらご飯も食べずにベッドに倒れ込むが、夜中に何度も目が覚めてしまい、何時間寝たのかもわからないような日が続いた。
集中力は低下し、仕事の効率も下がる。残業はさらに増え睡眠時間は削られる一方だった。エナジードリンクや栄養剤などに頼るも、効果は実感できず、眠気もおさまらない。ミスは増え、心の余裕もなくなり、さらに動悸まで感じるようになった。
このままだと倒れてしまうと危機感を覚えた矢口さんは、疲労専門外来を受診した。
矢口さんを診察したナカトミファティーグケアクリニック・中富康仁院長「疲れ切っているけど、頑張って保っていると感じた。会話をした時、すぐに答えられなかったり、結構考えてしまったり、頭が働いていない印象があった。明らかに過労状態がかなりの期間続いていた。睡眠自体短く、質も悪化していた」
矢口さんは過労による睡眠障害と診断され、1か月自宅療養することに決まった。規則正しい生活で体内時計を整え、最低7時間は睡眠を取るように心がけて、朝まで眠れるよう処方された睡眠薬を服用した。
矢口さん「1週間睡眠時間を確保しただけでも、心と体がスッと軽くなった」
1か月後に職場復帰してからは仕事量をセーブし、夜ぐっすり眠れる日が続いている。
矢口さん「睡眠が取れるとプライベートも充実し、体を動かす趣味の時間も確保できるので、今は心身ともに落ち着いた状態。もうエナジードリンクは必要ないと思っています」
健康な人はエナジードリンクOKだけど
なぜ睡眠を取らないと疲労が溜(た)まるのか。
脳の中の自律神経の中枢は、心臓の動きや呼吸、体温などを調整する指令を出している。この部分の細胞は日中のストレスや運動などで発生する活性酸素で傷付けられる。傷が増えると疲労感を覚えさせる「疲労因子FF」というタンパク質が増加し、脳内で「疲れた」とアラームを出し体に休息を求める。
傷を回復するのは「疲労回復因子FR」というタンパク質で、睡眠中に最も増加する。睡眠が十分でないとこれが増えず、傷が修復されないので、「疲れた」というアラームが鳴りっぱなしになるのだ。
関西福祉科学大学・倉恒弘彦教授「大切なのは、疲れは悪者ではなく、体の異常を知らせるアラームということ。激しい運動や長時間の作業をすると体には遺伝子レベルで傷が付く。そのまま気付かずに動き続けると、細胞が壊れてしまう。大きな病気につながるおそれもあるので、疲労感を覚えたら解消する対策を取らなければならない。疲労感に上手く対応するのが健康な生活を送るカギ」
矢口さんはエナジードリンクや栄養剤に頼っていた時期があるが、こうしたものを服用するのは避けた方がよいのだろうか。
倉恒教授「健康な人がどうしても仕上げなければならない仕事などがあった場合、カフェインを含んでいるドリンク剤を服用して仕事を仕上げ、その後しっかり休養を取れるなら決して間違いではない。長期間にわたって疲弊している状態でカフェインを摂(と)ると、どんどん体内のひずみが大きくなっていくので避けるべき」
普段睡眠時間が取れない分、休日にたくさん寝る、いわゆる「寝だめ」はどうか。
倉恒教授「1週間全然休養が取れない人に比べれば、休日に休養をしっかり取って体を回復させるのは意味がある。ただ、休日だけ休養を取っても普段溜まっている疲れがリセットされるわけではないので、やはり毎日しっかり休養を取るのが望ましい。寝だめは健康の維持にはつながらない」
疲労が続くと脳卒中や心筋梗塞、狭心症などの病気のリスクが高まり、突然命を失うケースもある。健康な状態での疲労は2~3日の休養で回復するが、2~3週間疲労感が続くと異常を疑った方がよい。十分に休養を取っても1か月以上疲労感が続いたら、医療機関を受診しよう。
セルフチェックで危険な疲労かどうか判断
疲れは感じているが、あまり心配しなくてもよい程度なのか、病院にかかった方がいいレベルなのかは自己判断が難しい。そんな時は「疲労度セルフチェック」をしてみよう。
(1) 微熱がある
(2) 思考力が低下している
(3) 疲れた感じ、だるい感じがある
(4) よく眠れない
(5) ちょっとした運動や作業でも非常に疲れる
(6) ゆううつな気分になる
(7) 筋肉痛がある
(8) 自分の体調に不安がある
(9) 働く意欲が起きない
(10) ちょっとしたことが思い出せない
(11) この頃体に力が入らない
(12) リンパ節が腫(は)れている
(13) まぶしくて目がくらむことがある
(14) 頭痛、頭重(ずじゅう)感がある
(15) ボーっとすることがある
(16) 一晩寝ても疲れが取れない
(17) 集中力が低下している
(18) のどの痛みがある
(19) どうしても寝過ぎてしまう
(20) 関節が痛む
以上の20項目について、「全くない」を0点、「少しある」を1点、「まあまあある」を2点、「かなりある」を3点、「非常に強い」を4点とし、合計点を出す。男性は0~16点、女性は0~19点なら「安全ゾーン」だ。男性が17~22点、女性が20~28点で「要注意ゾーン」、それ以上が「危険ゾーン」になる。
十分な睡眠以外にも、効果的な疲労解消法がある。
まずは食事。鶏むね肉、マグロやカツオなどの赤身魚には、「イミダゾールペプチド」という疲労回復物質が多く含まれている。比較的安定した物質なので、調理法は何でもOKだ。
かんきつ類や梅干しなどの酸っぱい食べ物に含まれるクエン酸は、活動するためのエネルギーになるので、疲れた時に適量摂るとよい。
入浴は、体を温め、血液の流れが良くなり、疲労回復につながる。ぬるめの湯温で10~15分入るのがオススメだ。
森林浴には緑の香りによるリラックス効果がある。忙しくて行けないという人は、緑茶の香りをかいでも同様の効果が期待できる。ただ緑茶にはカフェインが含まれるので、飲む時は量や時間帯に注意しよう。