薬が効かない耐性菌の出現で、放っておくと2050年には最大で毎年1000万人の死者が出るという報告が2016年5月に英政府研究機関から出され、人類の危機が迫っているが、コアラやカンガルーなどの有袋類が私たちを救ってくれるかもしれない。
豪シドニー大学の研究チームが、有袋類の一種、タスマニアデビルの母乳の成分が耐性菌を殺傷させることを突きとめ、英の科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)の2016年10月11日号に発表した。
病原菌ウヨウヨの袋の中で赤ちゃんが育つ謎
タスマニアデビルは、オーストラリアのタスマニア島だけに生息する肉食性の有袋類。イヌほどの大きさで、子グマのような姿だ。可愛らしい外見に似合わず、貪欲に小動物を襲って食べ、死肉もあさる。気味の悪い鳴き声を上げることから、デビル(悪魔)の名前がついた。かつてはオーストラリア本土にも生息していたが、人間がイヌを持ち込んだため絶滅した。
発表された論文によると、研究チームがタスマニアデビルに注目したのは、有袋類が子どもを育てる独特の生態にあった。カンガルーを見るとわかるが、有袋類は赤ちゃんを非常に未熟な状態で、体の外の袋(育児嚢)の中に生み落とし、袋の中で母乳を与えて育てる。タスマニアデビルの生まれた直後の赤ちゃんは米粒ほどの大きさしかなく、イモムシのように乳首に食らいついて育つ。人間の子宮の中と違って、袋の中は病原菌に満ちており、赤ちゃんの免疫系もまだ未成熟なままだ。どうやって赤ちゃんが生き延びるか謎だった。
そこで、研究チームは母乳に含まれる抗菌タンパク質「カテリシジン」に着目した。その結果、カテリシジンに含まれる成分が、悪質な耐性菌として知られる2種類の病原菌を殺傷することがわかった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)で、ともに世界中で病院内感染の元凶として多くの死者を出している耐性菌だ。