読み書きなどの目の疲れが原因で起こると考えられてきた老眼が、類人猿のボノボにも起こることが京都大学霊長類研究所のチームの調査でわかった。人間の老化を研究するうえで貴重な成果だという。
この研究は、米の科学誌「カレント・バイオロジー」(電子版)の2016年11月7日号に発表された。
人間では40代半ばから近くが見えづらくなる
老眼は、目のピントを調整する「水晶体」の機能が老化で衰え、近くの物が見えづらくなる症状。人間では40代半ばから老眼が進む人が多い。読み書きなど細かい目の作業が原因で起こる、人間だけの現象と考えられてきた。弱肉強食の野生動物の世界では、老眼が起こるほど長生きするケースが稀なので、よくわかっていない。
京都大学の11月8日付発表資料によると、ボノボは人間に最も近い類人猿だ。同研究所博士課程の柳興鎮さんらはアフリカ・コンゴに生息する野生のボノボ14頭(11~45歳)を観察、仲間同士で毛づくろいする時の目と指の間の距離を、デジタルカメラを使って測定した。
その結果、35歳までは平均で約10センチ以下だったが、40歳前後では平均で約20センチにまで伸び、最高齢の45歳では43センチだった。近い物が見えにくくなる老眼になったため、距離をとるようになったとみられる。
柳興鎮さんらは発表資料の中で、「ボノボの老眼の進行速度は、人間の老眼ととてもよく似ています。人間の老眼が、現代社会特有の現象ではなく、自然な老化の過程であることがわかりました。今後は、なぜ人間が類人猿に比べて長生きなのか調べるのが課題です」とコメントしている。
ワンコやニャンコも老眼になるの?
さて、老眼が自然な老化の過程とすると、高齢の犬や猫も老眼になるのだろうか。多くのペット関連サイトを調べると、老眼のように近くの物が見えづらくなるより、白内障になって視力が低下するケースがほとんどのようだ。
犬情報サイト「Won buddy」(ワンバディ)の「犬も老眼になる?」をみると、こう説明している(要約抜粋)。
「犬には人間のような近くの物に焦点を合わせられなくなる老眼はありません。犬はもともと近視です。聴覚と臭覚に優れ、それらを補うので問題はありませんが、老化とともに白内障になります。若年性白内障ならともかく、老犬の場合はリスクが高く、手術はお勧めしません。上手に付き合っていくのが一番。我々人間が視力を失うのと同様の不便さはありません」
それでも愛犬が少しでも快適に暮らせるよう、次の工夫をアドバイスする。
(1)散歩の時は飼い主が犬の目になってあげる。
(2)手からおやつを上げる時は指をかまれないよう注意。
(3)犬の近くで不用意に大きな音を出さない。
(4)家具の配置などに気をつける。
一方、逆に猫はいわゆる「遠視」で、もともと老眼のように近くの物が見えづらい動物だ。優れたハンターだが、実は視力が人間の10分の1くらい。焦点を合わせて物がはっきり見える距離は2~6メートルの範囲らしい。エサ皿の中身は、実際はボンヤリとしか見えていないのだ。その代わり、夜間の抜群の視力や、優れた臭覚、聴覚を駆使して獲物を探す。
犬猫サイト「ペット生活」の「猫の白内障」をみると、猫は人間や犬に比べ、はるかに白内障になりにくい動物で、こう説明している(要約抜粋)。
「猫の白内障は稀な病気です。猫の白内障で多い原因は、(他の猫とのケンカやケガなどによる)直接的な目の外傷です。白内障になると、目の中央部分が白く濁るのでわかります。また、ふらついたり、壁にぶつかったりします。特に子猫は活発に動くので目に外傷を負いやすく、注意してください」
猫の場合は、老化による視力低下より、若い頃からの外傷の方が怖い。生活環境の中で危険なものがないよう気を付けてあげることが大事なようだ。