「創業家絡み」子会社の売却も辞さず 武田薬品の聖域なき選択と集中

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   武田薬品工業がカナダ製薬大手バリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナルと胃腸薬事業の買収交渉を進めていることが2016年11月2日、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道などで明らかになった。

   実現すれば買収総額は100億ドル(約1兆300億円)となる大型案件。武田は、がんなどに重要分野に絞った新薬開発に力を入れるため、海外から招いたクリストフ・ウェバー社長のもと「選択と集中」を進めており、カナダ社買収交渉の一方で創業家にかかわる重要子会社の売却も計画。大胆な判断が実を結ぶか注目されている。

  • 両社の買収交渉が明らかになった(画像はイメージ)
    両社の買収交渉が明らかになった(画像はイメージ)
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「1兆円買収」を交渉中

   1兆円の買収交渉を進める対象は、バリアントが2015年4月に買収した米サリックス・ファーマシューティカルズ。胃腸薬を主力商品としていて、中でも下痢止め剤や過敏性腸症候群などに強いとされている。バリアントは約110億ドルでサリックスを傘下に収めたものの、バリアント自身に粉飾決算疑惑が明るみに出てトップが交代するなど経営が混乱。財務基盤も悪化しており、債務圧縮を急ぐため、サリックスを早々に手放すことにした。武田は今春、バリアント本体の買収を試みたが拒否された、と指摘する報道もある。武田は今回のバリアント社の胃腸薬事業の買収交渉を巡る報道について11月2日、「重点領域において常に複数の相手先との案件について交渉を行っているが、現時点で開示すべき合意事案はない」とのコメントを出し、交渉は認めた。

   武田は英製薬大手グラクソ・スミスクラインからウェバー氏を迎え入れ、ウェバー氏は2014年6月に社長に就任。2015年4月からは最高経営責任者(CEO)を兼任している。前社長の長谷川閑史会長は経営の一線から事実上退いており、ウェバー氏に武田の経営をゆだねている。実際、現在の武田で代表権を持つ取締役はウェバー氏1人だ。

   大型買収自体は、ウェバー氏が社長に就く以前の武田も取り組んでいた。2008年には約9000億円でがん治療薬開発に強みを持つ米バイオ医薬品ミレニアム・ファーマシューティカルズを買収、2011年には欧州や新興国に基盤を持つスイスの製薬大手ナイコメッドを約1兆1000億円で買収した。ただ、このころの武田は「大ヒット作」(国内製薬大手)だった糖尿病治療薬「アクトス」の米国特許切れ問題への対応に追われていた面が強い。2012年のジェネリック(後発)医薬品参入を控えて大幅な売り上げ、利益の減少を食い止めるため、相次いで買収に動いた経緯がある。ナイコメッドについては「日米に偏りがちな武田の事業展開を補う意味はある」と当時、指摘されていた。

「がん」「中枢神経」「消化器」という重点分野に注力

   今回のバリアント社の胃腸薬事業を巡る「1兆円買収」は、ナイコメッドなどを買収した当時とステージが違っている。大きな特徴は「選択と集中」を進めている点だ。

   武田の年間売上高は2016年3月期で約1兆8000億円と日本勢では首位だが、米ファイザーなど5兆円規模の海外勢の背中は遠く、売上高で世界上位10社入りをうかがう程度にとどまる。ただ、武田としては規模拡大も重要課題だが、「何でもやる」のではなく、「がん」「中枢神経」「消化器」という重点分野に注力する方針。有力な新薬を開発するには1000億円規模の費用が必要とされるだけに、得意分野を絞る必要があることも背景にある。

   ウェバー氏率いる武田は、選択と集中のためには「しがらみ」にとらわれない。今回の1兆円買収交渉と並行して富士フイルムホールディングスに、傘下の試薬大手「和光純薬工業」の売却交渉(総額約2000億円)を進めている。同社は、武田が株の約7割を持つ半面、創業家の武田家一族が株主に名を連ねる。重点事業との関連が薄いとはいえ、普通のサラリーマン社長なら腰が引ける案件だが、外国人社長のもとで文字通り「聖域なき改革」に踏み込んでいる武田の姿がそこにある。

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