「きゃ~、ヘビよ!」――。ヘビが苦手な人は多い。とりわけ女性は派手にヘビを怖がることから、心理学の世界には男性のシンボルに似ているからという説もあるが、名古屋大学の研究チームが、樹上生活をしていた祖先のサルの時代に、ヘビが唯一の捕食者だったため本能的に恐れると突きとめた。
2016年10月26日付の米科学誌「プロスワン」(電子版)に発表した。
ヘビを見たことがない3~4歳の幼児まで
人間がヘビを怖がる理由については、2010年11月に京都大学霊長類研究所のチームが、生まれてから一度もヘビを見たことがない3~4歳の幼児を対象に実験を行なった。花やヘビなど複数の写真の中からヘビだけを素早く見つけ出すことから、本能に基づくものであることを明らかにしている。
名古屋大学の発表資料によると、学生たちを対象に、最も見にくい状況下で、ヘビ、猫、鳥、魚の写真のどれが認識できるかを実験した。それぞれの動物について写真は4種類ずつ用意した。そして、写真に5%刻みでノイズ(粒子)を混ぜて見えにくくしていった。
どの動物が写っているかの判断を、最も見にくい写真(95%ノイズ)からはじめ、順にノイズを少なくしていきながら学生たちに見せていったところ、ヘビは他の動物に比べ、ノイズが多い条件下でも、すぐに正しく見分けられた。正答率は、ノイズが40%の段階を例にとると、ヘビが9割、鳥が7割、猫が6割、魚が4割と、ヘビを見分ける能力が圧倒的に高かった。
ヘビは獲物に襲いかかる時、体を葉や石に隠しながら近づき、周囲の物にカモフラージュしやすい模様になっている。人間の目は、ヘビのカモフラージュを見破る能力を発達させているのだ。
研究チームの川合信幸准教授は、発表資料の中でこうコメントしている。
「人間の祖先は6500万年前から樹上生活を始めました。当時、樹上のサルを捕食できるのは、ワシやタカの猛禽類とネコ科の動物、そしてヘビですが、30メートルを超える枝の生い茂った場所まで近づけるのはヘビだけだったでしょう。そのため、サルはヘビのカモフラージュはすばやく見つける必要がありました。脳内でヘビに敏感に反応する領域が発達し、すぐに恐怖を感じ対応できるよう進化したと考えられます」