トヨタ自動車がF1と並ぶモータースポーツの最高峰の一つ、世界ラリー選手権(WRC)に「ヤリス(日本名ヴィッツ)WRC」で、2017年1月のモンテカルロラリーからフル参戦する。トヨタのWRC参戦は1999年のカローラWRC以来、18年ぶり。日本車メーカーのWRCワークス参戦は、2008年にスバルが撤退して以来、9年ぶりとなる。日本ではあまり話題にならないが、WRCは欧州などで人気が高く、日本車復活の意義は大きい。
トヨタは16年10月16日まで開かれたパリモーターショーでヤリスWRCを公開。マイクロソフトが「テクノロジー・パートナー」として、「極限走行の車両から得られる情報を集約し、最先端のデータ解析を行う」という。トヨタがマイクロソフトと提携し、モータースポーツ活動を強化する基本合意も発表となった。
久しぶりの4大ワークス体制に
WRCは現在、独フォルクスワーゲン(VW)、仏シトロエン、韓国・現代(ヒュンダイ)がトップ争いをしており、トヨタの参戦で久しぶりの4大ワークス体制となる。
ヤリスWRCはヴィッツのボディーをベースにラリーカーに改造した。スペックの詳細は明らかになっていないが、ライバルのVWポロやシトロエンDS3などと同じく、新たなレギュレーションに基づく1.6リッターの直列4気筒ターボエンジンで、最高出力380PSの4WDとなる見通し。
注目の参戦ドライバーは10月18日、トヨタがフィンランド人のユホ・ハンニネンと契約したと発表。現在、WRC3年連続チャンピオンのVWのセバスチャン・オジェはじめトップドライバーはシトロエン、現代などが押さえており、トヨタが第一線級のドライバーを獲得できるか注目されたが、結果的に2016年春からヤリスWRCの開発テストドライバーとして活躍したハンニネンに落ち着いた。
ハンニネンは1981年7月生まれの35歳。欧州のインターコンチネンタルラリー、ヨーロッパラリー選手権などでチャンピオンに輝いている。WRCの活躍は未知数ながら、実力派のドライバーを獲得できたようだ。ハンニネンは「ヤリスWRCの仕上がりは驚くべきものだ。モンテカルロのデビューが待ち遠しい」と話している。
さらなるブランドイメージの向上に成功するか
しかし、18年ぶりにWRCに参戦するトヨタが、復帰初年の2017年からトップ争いを演じるほど、WRCは甘くないという見方が一般的。強豪VWやシトロエンはマシン開発と熟成、ドライバーの実績とも一日の長がある。VWは「ヤリスはVWにとっても手強いライバルとなるだろう」とコメントしているが、トヨタといえども初年のスタートダッシュは至難の業だろう。
かつてWRCはトヨタ、スバル、三菱など日本メーカーがワークス参戦し、1990年代に黄金時代を築いた。トヨタは1990年と1992年にカルロス・サインツがセリカGT-FOURでドライバーズタイトルを獲得。1993年にはユハ・カンクネン、1994年にはディディエ・オリオールが、それぞれドライバーズタイトルとマニュファクチャラーズ(製造者)タイトルの2冠を達成。1999年にカローラWRCが3度目のマニュファクチャラーズタイトルを獲得した後、トヨタはF1参戦を機にWRCから撤退した。
マニュファクチャラーズの優勝回数はスバルが通算47回でトップ。トヨタが43回、三菱が34回と続く。スバルは1995年から1997年までインプレッサWRXで3年連続チャンピオンとなった。
WRCはレーシングカーと異なり、市販車のイメージを強く残すマシンで戦う。欧州では人気があり、マーケティング効果も高い。スバルインプレッサの活躍が、欧州におけるスバルのブランドイメージを飛躍的に高めたように、世界を転戦するラリーカーは、走る広告塔でもある。韓国の現代がWRCに参戦したのは、同じ極東のメーカーであるスバルが欧州で名声を高めたことに習ったと言われている。
果たしてトヨタはWRC復帰で、さらなるブランドイメージの向上に成功するか。参戦の真価が問われることになる。