エネルギーの将来像をいかに示せるか
東電は実質国有化されたままだ。福島第1の賠償や廃炉の道筋などについて責任を果たせる体制ができてきたと国が判断すれば、2017年4月以降に民間に戻るための手続きに着手するというスケジュールが難しくなった。
問題は、狭い意味での東電の経営にとどまらない。福島第1の事故処理費用は、政府が9兆円まで交付国債を発行して立て替える仕組み。うち5.4兆円と見込んだ被災者への賠償費用は東電と関西電力や中部電力などほかの電力大手が共同で負担することになっているが、賠償はすでに6兆円を超えており、8兆円規模に膨らむといわれている。除染費用の2.5兆円は国が持つ東電株の売却益を当てる計画だが、この費用も2.5兆円を上回るのが確実。さらに原子炉内の核燃料の取り出しといった廃炉作業は9兆円とは別枠で、年間800億円を東電が自力で負担するとしていたが、経産省は25日の東電委員会で、これが年間数千億円に膨らむとの試算を出したように、どれだけかかるか、正確には誰にもわからないのが実態だ。
経産省が打ち出した東電の分社案は、最終的に東電の原子力事業を東北電力や日本原子力発電(原電)などと統合することを視野に入れており、安全技術の共有や資材の共同調達などによるコスト削減が期待されるが、大前提は柏崎刈羽の再稼働で、これらによる収益を廃炉費用の原資と見込む。東電への不信感が広範に存在することから、東電と切り離し、原電などの「権威」を借りて信頼を回復することで、柏崎刈羽の再稼働につなげる狙いだ。
ただ、一緒にされようという東北電力や原電にとって、原子力事業の収益を廃炉費用にもって行かれるのでは、再編のメリットはなく、スンナリ乗れる話ではない。
柏崎刈羽の再稼働が後ズレするほど、廃炉などの費用にあく穴が広がることになり、不足分は最終的に電気料金への上乗せなどを通じた国民負担にならざるを得ないとの声が政府内から出ている。
政府は2030年度の原発の発電比率20~22%とするエネルギー政策を堅持するが、新潟県知事選、さらに原発の一時停止を掲げた三反園訓氏が当選した夏の鹿児島県知事選で原発への厳しい世論が改めて示された。東電の経営改革案は年内にもまとまる予定だが、廃炉などの費用だけでなく、温暖化対策や電気料金引き下げ、さらに高速増殖炉「もんじゅ」廃炉なども含め、国民の納得行く費用負担やエネルギーの将来像をいかに示せるか、政府に大きな課題が突きつけられているといえそうだ。