東京国際映画祭が2016年10月25日に始まった。そのクロージングを飾る作品が夭逝した天才棋士・村山聖(さとし)さんを描いた映画「聖の青春」(11月19日一般公開)だが、主演の松山ケンイチが役作りのために約20キロ太り、渾身の演技を見せていることが話題になっている。
同じく、同年9月から公開中の映画「怒り」でも、宮﨑あおいが約7キロ太った姿で「女優魂」を炸裂、評価を高めた。よく俳優は役作りのために激太りしたり、激やせしたりするが、どんな方法で体重を増減させているのだろうか。
アン・ハサウェイ11キロ減、マット・デイモン13キロ増
役作りのために体型を変えることは、映画界では、ロバート・デ・ニーロがボクシング映画「レイジングブル」で激太りと激やせした姿を同時に見せたり、ギャング映画「アンタッチャブル」で頭髪を抜いたりしたことにちなみ、「デ・ニーロ・アプローチ」と呼ばれる。「レ・ミゼラブル」でアン・ハサウェイが11キロやせ、シャーリーズ・セロンは「モンスター」で13キロ、マット・デイモンは「インフォーマント」で13キロ、クリスチャン・ベイルは「アメリカン・ハッスル」で19キロ、それぞれ体重を増やした。
2015年には、クリント・イーストウッド監督の映画「アメリカン・スナイパー」で、イケメン俳優で鳴らしたブラッドリー・クーパーの激太り姿が話題になった。イラク戦争で160人を射殺した伝説の狙撃手を演じるため18キロ増やした。実在モデルが筋肉質の巨漢だったため、太るだけでなく筋肉まで鍛える肉体改造をした。映画サイト「cinemacafe.net」(2015年2月5日付)によると、クーパーが語った役作りはこんなに過酷なものだった。
「海兵隊と一緒に実弾訓練や通常のトレーニングを積んだ。体重を増やすために成人が1日に必要なカロリーの約4倍の8000キロカロリーを毎日摂った。3か月の間、毎朝5時に起き約4時間トレーニングを行ない、1日5食に加え、パワーバーやサプリで栄養補給をした。起きている間は、いつも食べているか、運動をしているかだ。あれはキツかったな」
松山ケンイチ「太ってみないと分からない」
「聖の青春」は幼少期より難病のネフローゼを患い、入退院を繰り返しながら将棋九段まで上り詰めた故・村山聖さん(享年29)がモデルだ。村山さんは病気のせいで超ポッチャリ体型だった。松山ケンイチは、どんな方法で何キロまで体重を増やしたか明かしていないが、エンタメ総合誌「エンタミクス」(2016年12月号)のインタビューでこう語っている。
「体重は測っていませんが、撮影までに3か月かけて増やしました。太ることで姿勢や歩くスピードはもちろん、考え方まで変わってくるんです。太ってみないとわからないことってあるんですね」
将棋界の至宝だった村山さんに成りきろうとする松山の役者魂に、将棋ニュースサイト「将棋ワンストップ・ニュース」(2016年1月6日号)はこう絶賛する(要約抜粋)。
「松山さんは『聖の青春』を配給するKADOKAWAの角川歴彦会長に『20キロ太る』と意気込んで話されたそうです。ここ最近の松山さんの太られていく様子は、多くの将棋ファンの心を打っています。しかし、松山さんは役者なので撮影後はやせなくてはいけません。やせられずに仕事がなくなったらどうするのでしょうか。将棋界は『松山さんライザップ募金』くらい集めないといけないと思います」
こんな心配も無用だ。先の「エンタミクス」誌のインタビュー写真を見ると、2016年10月現在、松山ケンイチは見事に元の体重に戻っているようだ。
チーズと塩昆布をご飯にかけてモリモリ
映画「怒り」では、スレンダーな魅力がウリの宮﨑あおいが、7キロも太ったうえ、ほぼスッピンの熱演がツイッター上でも話題になっている。やせ体質を自認する彼女は、どうやって太ったのか。映画サイト「シネマトゥデイ」(2016年8月28日付)のインタビューで、彼女はこう語っている(要約抜粋)。
「しっかりご飯を食べたあとに、またご飯を食べます。たとえば、白米にクリームチーズをかけて、おかかを乗っけてお醤油をたらし、ちょっと塩昆布をかけてかき混ぜるとすごくおいしくて(笑)。あとは寝る前にアイスクリームを食べたり、なるべく動かずにゴロゴロしたり。結局、プラス7キロくらいまではいきましたが、自分の目標には届きませんでした。(撮影が終わると、次の仕事のために10日間で元に戻す試練が待っていたが)減らす方が楽でしたね。徹底した食事制限とダイエットマッサージ、自力と他力で頑張りました」
激やせ・激太りを繰り返すことで「和製デニーロ」と呼ばれているのが鈴木亮平だ。TBSドラマ「天皇の料理番」(2015年4~5月放送)では病に侵されてやせ衰えていく役を演じるために20キロ減量した。その直後の映画「俺物語!!」(2015年10月公開)では、「天皇の料理番」で落とした体重を一気に30キロ増やす荒業をやってのけた。身長2メートル、体重120キロという豪快な高校生を演じるためだ。
20キロやせた後に30キロ増やした鈴木亮平
「シネマトゥデイ」(2015年10月25日付)によると、トレーナーもつけずに独力でやってのけた。鈴木亮平はインタビューにこう語っている(要約抜粋)。
「原作が外見ありきの話なので、見た目を似せることが必要でした。筋トレをしつつ、パンをひたすら食べていました。パンだと詰め込めばたくさん食べられます。糖質がそのまま吸収されて血糖値がバンと上がるので、増量に効果的です。体に良くないし、常に満腹だからつらいですが(苦笑)」
鈴木亮平は映画公開初日の舞台あいさつで、「とにかくずっと食べ続けていました。夜、寝ている間に消化されちゃうので、夜中に1回起き食べて寝る。まとめて眠れないのがストレスでした」とも語っている。
ちなみに「天皇の料理番」で20キロやせた時は、186センチの体を50キロ台にまで絞る過酷なダイエットだった。2015年4月25日放送のTBS「王様のブランチ」の中で、鈴木亮平はその方法をこう語っている。
「だんだんやせていかなくてはならないってところが一番大変でした。小さなスプーンで食べるといいですね。何杯も食べている気分になります」
激やせといえば、NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」(2009~2011年)で、正岡子規を演じた香川照之は、子規が脊椎カリエスでやせ衰えて死ぬ場面では17キロも減量した。身長171センチ、68キロの体重を5か月間で51キロにした。週刊誌「女性セブン」(2011年12月15日号)では、香川照之のダイエット方法をこう伝えている(要約抜粋)。
香川照之の浮き出た肋骨に菅野美穂が泣いた
「香川照之の方法は、朝食でご飯や卵焼きなどの和食をお腹いっぱい食べ、昼と夜は何も口にしないというものだった。チーフ・プロデューサーの藤澤浩一さんがいう。『ロケが終わり夕食に誘っても、香川さんは、僕はいらない、と。(空腹を我慢しつつ)トレーニング姿でホテルの周りをジョギングしていました。妹・律役の菅野美穂さんが、死ぬ間際の子規の背中をさするシーンがありました。ダイエットで洗濯板のようにゴツゴツと浮き出た肋骨をさすった菅野さんは、泣きそうになった、といっていました』。こうして、死の直前、ガリガリの子規が病床で秋山真之に『このままでは死にきれんぞ』と訴えるシーンは、屈指の名場面になった」
役作りのためとはいえ、俳優たちが敢行する激やせ・激太りは凡人のなせるワザではない。俳優たちがさらにスゴイところは、みな、元の体に戻っている点だ。リバウンドしないという強い精神だけは見習いたい。