梅毒に感染する若者が増え続けるなか、日本産婦人科医会は2016年10月13日、妊婦の梅毒の感染率を調査した結果を発表した。感染率は若い妊婦ほど高く、20代は平均の約2倍、10代は約8倍にも上るという衝撃の内容だ。
妊婦が感染している場合はほぼ確実に胎児も感染する。産婦人科医会は対策の必要性を訴えるが、なぜ若者の間で梅毒感染率が高くなっているのだろうか。
梅毒に感染した胎児の40%は死亡する
日本産婦人科医会の発表資料によると、全国2458の分娩取扱い施設に対し、2015年10月1日から2016年3月31日までの間に分娩した妊婦の梅毒感染率をアンケート調査し、1919施設の30万5652人の妊婦から回答を得た。全体の感染率は4022人に1人だが、年代別にみると20代では2449人に1人、さらに10代では537人に1人と、若い年代で高かった。
梅毒は性的な接触によってうつる「梅毒トレポネーマ」という病原菌が引き起こす感染症。国立感染症研究所のウェブサイトによると、妊婦が梅毒に感染した場合「ほぼ100%胎児へ伝播する」。さらに「感染した胎児の40%は子宮内死亡または周産期死亡する」。避妊具(コンドーム)の使用が有効な予防とされており、日本産婦人科医会は「若年者の性教育の重要性」を今後の課題に挙げている。
厚生労働省の統計によると、梅毒感染者数は2010年以降毎年増加し、2010年の621人から2015年は2697人で約4.3倍に。2016年は1~3月の間ですでに796人おり、2015年同期(397人)比で2.0倍増えた。特に20代前半(20~24歳)の女性の増加が目立つ。2010年が18人だったのが、2015年には240人と13倍以上の急増ぶりだ。
なぜ若者の感染が増えているのか。新宿レディースクリニック副院長の釘島ゆかり医師が小学館のニュースサイト「NEWSポストセブン」(2016年4月26日)の「若い女性の梅毒増加 LINEによる出会いが理由」の中で指摘したのは、恋愛の形の変化だ。スマートフォンの普及により、SNSや通信アプリを通して見知らぬ異性と出会うのが普通になり、セックスの頻度や人数が上がっている推測した。
経験男性「21人以上」が20代女性の1割も!
実際に、性行為をした相手の人数は若い女性の間で多くなっているようだ。2016年10月17日発売の週刊誌「AERA」(10月24日号)の「日本人のセックス 500人大調査」では、20歳以上の男女500人に性生活について尋ねた調査結果を掲載。「経験人数」がすでに「21人以上」と答えた人は20代女性で9.6%もいた。著述家の湯山玲子さんは同誌の中で「20代女子は、結婚できない30、40代女子を見ているため、早くいい男をゲットする必要があり、セックスを武器に(数を)こなしておかなければ大変なことになると思っている」と分析している。
梅毒は、最悪の場合死に至る病でありながら自覚症状が出づらいため、知らぬ間に感染を拡大させる危険がある。ウェブ版「日刊SPA!」(2016年9月4日)は、「正直、自分も誰かにうつしちゃったかもしれない」という感染男性の声を掲載した。男性は肛門に腫れができたが、痛みがないので放っておいたら腫れが消えた。だが、湿疹や微熱が断続的に出たため検査をしたら梅毒だった。性感染症治療に力を入れる虎ノ門・日比谷クリニックの大和宣介医師は、「表面上治ったように見えても菌は体内で増え続け、治ったと勘違いしたまま性交渉をし、さらなる感染拡大を引き起こしてしまう」と、梅毒の脅威を伝えている。
梅毒は1987年をピークに2010年までは減少傾向にあったため、若者の間で知らない人が増えている。前出「NEWSポストセブン」で釘島医師は、20代女性に梅毒感染の事実を告知した時、「恐ろしい病気という偏見もなく、ピンときていない様子だった」ことに驚きを感じたという。
梅毒は感染力が強く、何度でも感染するおそれがある。だが、がん・感染症センター都立駒込病院感染症科の今村顕史医師は2016年10月14日付、読売新聞(ウェブ版)の「スマホ世代のあなたへ 梅毒が流行中です」というインタビューで「早期に診断して治療すれば治せます。不安があるなら、ぜひ検査してください」と訴えている。