プロ野球のドラフト会議(2016年10月20日)で各球団は様々な顔を見せた。強運と不運、強気と弱気。将来の投資となる多額の契約金の使いどころが見ものである。
指名された投手は61人と、指名全選手(87人)の70%を占めた。内訳は高校生22、大学生23人、社会人16(独立リーグ、専門学校を含む)。投手豊作を示す結果だった。
強運みせたSB工藤監督
そんななかでの指名競争の注目点を挙げてみた。
(1)初志貫徹できなかった巨人
クライマックスシリーズで3位のDeNAに敗れ、チーム再建に乗り出した巨人は、注目の田中正義投手(創価大)に1位で入札した。5球団競合となり抽選でソフトバンクに持っていかれた。外れ1位で佐々木千隼投手(桜美林大)に入札したが、これも5球団競合でロッテに負けた。
この後、1位指名したのが吉川尚輝内野手(中京学院大)。
最大目標だった投手をあきらめ野手に変更したのである。初志貫徹できなかったわけで、ファンからすれば、最初に佐々木を指名しておけば獲得できたのに、という思いに違いない。
昨年までの巨人なら各球団の情報を得て安全に佐々木だっただろう。今年は情報戦でも敗れたといえる。
(2)自信のソフトバンク
日本シリーズ進出を逃したソフトバンクは強運を復活させた。工藤公康監督が自ら抽選クジを引き、5球団競合の田中を手中にした。
「田中君は腕の振りより球が速く感じる。他の投手にはない魅力を持っている。当たりクジのときは足が震えた」
そう振り返った工藤監督は、昨年も高校NO.1の呼び声高かった高橋純平投手(県岐阜商)を3球団競合に勝って取った。その運の強さは健在だった。
驚いたのは指名4選手(投手をもう1人に捕手と内野手)で終わったことである。これはチーム作りの方針が明確になっている証拠で、補強目標をクリアしたため指名を打ち切った。自信の表れといっていい。
キャンプでも絵になるコンビ
(3)来年の売り物を得たヤクルト
ペナント奪回を目指すヤクルトは、高校NO.1といわれる寺島成輝投手(大阪・履正社)を1位で単独指名に成功した。真中満監督が「即戦力」と最大級の評価をしている逸材である。
なによりもメディア受けするのは、いまや打者で球界最大のスターとなった山田哲人内野手の出身高校の後輩であること。これはPRできる。年が明け、自主トレで山田と一緒に体作りともなれば大きな話題だ。キャンプでも絵になるコンビとなるだろう。
(4)その他
このほか、日本シリーズで当たる広島と日本ハムがそろって2度も抽選で負けた。それでも広島は慶大の加藤拓也投手を獲得。これで明大出の野村祐輔、早大出の福井優也と東京六大学トリオが形成された。日本ハムはその広島の地元の広島新庄高の左腕で三振の取れる堀瑞輝投手を指名した。大谷翔平をはじめ投手育成の成果が目覚ましいチームなので成長が楽しみである。
最大10人を指名したのは楽天。社会人、大学、高校に加え、準硬式と幅広く補強した。必死のチーム作りがうかがえた。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)