ボクシング映画「ロッキー」(1976年)に有名なシーンがある。ロッキーの親代わりの老トレーナー、ミッキーが、ペット店で働く女性エイドリアンに熱い視線を送るロッキーにこう警告する。「あの女には近づくな。女は足にくる」。
スポーツ界では試合前夜にセックスをすると、成績が悪くなるとして禁欲を強いるコーチが多い。一方、リラックスできると妻・恋人同伴を推奨する監督も少なくない。いったい、シテいいのか悪いのか、長年続いてきた「禁欲論争」に終止符をうつ研究がまとまった。「試合の2時間以上前ならオッケイ!」というのだ。
モハメド・アリは禁欲、ベーブ・ルースは快音一発
この研究を発表したのは、イタリア・フィレンツェ大学スポーツ医学部のラウラ・ステファニー助教授らのチーム。生理学専門誌「Frontiers in Physiology」(電子版)の2016年6月21日号に論文を掲載した。その研究を紹介する前に、ざっとスポーツ界の「禁欲論争」の流れをおさらいしておこう。
スポーツニュースサイト「Sports&Fitness Magazine」(日本語版)の「セックスとアスリート」(2000年5月)によると、古代ギリシャ・ローマから米国先住民にいたるまで、競技や戦闘など激しい運動の直前は、女性に指1本触れないのが伝統だった。「清め」の儀式であると同時に、セックスが選手(戦士)を弱くし、闘争心を奪うと考えられたからだ。
1905年のハーバード大学のトレーニングコーチの日記には、いかにして選手から女性を遠ざけるかという方法が細かくつづられている。 試合前のセックスについてはアスリートによってまちまちだ。ボクシングのモハメド・アリは「闘争本能が消える」と禁欲を貫いた。一方、快楽派の代表は大リーグのベーブ・ルースやタイ・カッブ。ともに大記録樹立がかかる試合の前日は必ずセックスをした。NBA(米プロバスケットボール)のウィルト・チェンバレンは生涯に1万人以上の女性と寝たことを自慢し、その多くが試合前日だったという。