トヨタ自動車とスズキが業務提携に向けた検討を開始したと2016年10月12日に発表し、自動車業界に波紋を広げている。両社は情報技術(IT)や環境、安全技術などの分野で協業するというが、肝心の資本提携には踏み込まなかった。
トヨタはスズキのライバルであるダイハツ工業を完全子会社にしているからだ。ではトヨタがスズキと業務提携するメリットは何か。自動車業界では「小型の世界戦略車の開発ではダイハツよりスズキに一日の長がある。トヨタはダイハツよりもスズキの小型車開発の技術が欲しいのではないか」とささやかれている。
自動車業界のサプライズ
今回の提携交渉は自動車業界ではサプライズだった。トヨタとダイハツは10月4日、「今後の新興国小型車事業の強化に向け、両社の役割分担を決定した」と発表したばかり。2017年1月をめどに新興国小型車担当のカンパニーを設置し、「競争が激化する新興国市場でダイハツの良品廉価なモノづくりをベースとした競争力のある商品を展開する」と説明していたからだ。
具体的には「新興国向けの小型車の開発・調達・生産準備をダイハツに一本化し、トヨタがサポート。商品企画や事業企画はトヨタとダイハツが一体となって策定・共有し、生産は両社の既存拠点を有効活用していく」と表明。トヨタは小型車開発でダイハツを活用する戦略を対外的に明らかにしたばかりだった。
常識的に考えれば、軽自動車はもちろん、小型車開発でトヨタはダイハツを活用すれば、スズキなしでもやっていけるはずだ。事実、トヨタはダイハツが軽の技術を活用して開発・生産した小型車ブーンをトヨタパッソとして販売している。
しかし、軽では国内市場でスズキとトップ争いをするダイハツだが、小型車では国内外ともヒット商品がなく、苦戦が続いている。スズキがインド市場を席巻し、ハンガリーに開発拠点を置いて国際戦略車スイフトやスプラッシュを開発し、世界市場で一定の成果を収めているのとは対照的だ。
両トップとも資本提携の可能性、否定せず
ダイハツはインドネシアで生産シェア1位、マレーシアでは政府と共同出資で国民車「プロドゥア」を展開し、販売シェア1位となっているが、スズキスイフトのような国際戦略車が育っていない。スイフトは今(16)年4月、世界累計販売500万台を突破。2004年の初代モデル発売以来、日本、ハンガリー、インド、中国、パキスタン、タイなど7か国で生産し、140以上の国・地域で販売している。日本はじめ各国のカーオブザイヤーも受賞した。
このため、自動車メーカー関係者は「スズキはインドなど新興国だけでなく、欧州市場でも小型車を開発し、販売してきた実績がある。この点はダイハツと大きく違う。トヨタはダイハツよりもスズキの小型車開発、販売戦略に魅力を感じているのは間違いない」という。
トヨタとスズキが業務提携の検討を発表した12日の記者会見で、スズキとの資本提携の可能性を問われたトヨタの豊田章男社長は「これから業務提携の検討を始めるので、中身は何も決まっていない」としながらも、「ダイハツとは半世紀やってきた。スズキとはまだ『お見合い』の段階なので、これから考えたい」と、含みを持たせた。スズキの鈴木修会長も「これからの議論だ。ゆっくり考える」と述べ、資本提携の可能性を否定しなかった。
トヨタはトラックの分野では日野自動車に50%出資して子会社としながらも、ライバルのいすゞ自動車にも6%出資し、共存を図ってきた経緯がある。「トラック市場における日野といすゞの棲み分けはわかりにくい」(自動車メーカー関係者)が、当面、ダイハツとスズキも日野・いすゞのような関係で共存する可能性が高い。ただし、国内でトップ争いを演じてきたダイハツとスズキの軽の開発競争が緩むようなことがあれば、日本のユーザーにとって朗報とはならないとの懸念も出ている。