労使双方に警戒感 官邸主導「働き方改革」の本丸

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   安倍晋三政権が目玉政策として掲げる「働き方改革」の議論が本格化している。首相側近の加藤勝信氏を司令塔役となる担当相に配し、議論は政府の「働き方改革実現会議」(議長・安倍首相)を主舞台に進め、2016年度内に「働き方改革実行計画」を取りまとめる方針だ。17年の通常国会以降、必要な法改正も断行する構えだが、労使の利害がぶつかるテーマが多く、官邸主導の調整がスムーズに進むか注目を集めている。

   働き方改革は、安倍首相が昨15年に打ち出した「一億総活躍社会」の主要テーマを引き継ぐもので、首相自身、「アベノミクス第3の矢、構造改革の柱である」(16年9月28日参院本会議)と位置付ける。

  • 「働き方改革」は安倍政権の目玉政策だ(画像はイメージ)
    「働き方改革」は安倍政権の目玉政策だ(画像はイメージ)
  • 「働き方改革」は安倍政権の目玉政策だ(画像はイメージ)

「同一労働同一賃金」と「長時間労働の是正」

   具体的な論点は多岐にわたる。専業主婦を優遇することで女性の社会進出を妨げる一因とされ、安倍首相が見直しを指示した所得税の「配偶者控除の廃止」は、あっさり、本格的な議論は先送りが決まった。このため、(1)正社員と非正社員の賃金格差を埋める「同一労働同一賃金」、(2)「長時間労働の是正」――の2本が大きな柱と位置付けられる。

   首相が10月27日の「働き方会議」初会合で、「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段。働き方改革は、社会問題であるだけでなく、経済問題です」と強調したように、最大の狙いは経済成長の底上げだ。背景には、少子・高齢化に伴う人口減少社会への危機感がある。

   首相が描くイメージはこうだ。同一労働同一賃金や長時間労働の是正で女性や高齢者の就労を促し、働く人の比率を高めるとともに、効率よく働くことで労働生産性を向上させ、賃金引き上げを後押し、消費を拡大させ、国内総生産(GDP)を大きくする――という「成長と分配の好循環」を生み出そうということだ。

   会議で扱うテーマは本来、厚生労働省の労働政策審議会(労政審)などで議論されながら経営側と労働側の隔たりが大きくて先送りされたものが多いため、官邸主導で改革を進めるという「諮問会議型」「有識者会議型」ともいえるスタイルになった。

残業時間に一定の上限規制を設ける方針

   ただ、「働き方会議」のメンバー23人のうち、8閣僚を除く15人を見ると、労働界からは神津里季生・連合会長だけで、榊原定征・経団連会長、三村明夫・日本商工会議所会頭、3企業幹部、経営コンサルタントなどがずらりと並び、「労使代表半々の労政審などと比べ、労働側の声はどこまで反映されるのか」(野党議員)との疑念も出ている。

   また、個々の課題には、極めて高いハードルがある。同一労働同一賃金と長時間労働は、日本型雇用システムの中で、表裏一体の関係にある。終身雇用、年功序列賃金、新卒一括採用などの雇用慣行の下で、経営者は長時間の残業を厭わず、配置転換にも従う正社員を求め、正社員も雇用の安定と引き換えに長時間労働などを受け入れてきた。残業代が生活給化しているという現実もある。このあおりを受けて非正規社員の賃金が低水準に据え置かれてきたわけで、特に派遣など非正規雇用を利用しやすくする改革で、企業側は不況時に解雇しにくい正社員の採用を抑え、仕事が増えると残業時間を増やした、足りない分は非正社員を採用するという対応が当たり前になり、今や非正規雇用が4割を占めるまでになった。

   こうした実態にどこまで改革の手を加えることができるのか。

   具体的な改革メニューは、同一労働同一賃金の実現に向け、正社員の6割程度の非正規社員の賃金水準を8割程度に引き上げるため、パート労働法、労働契約法、労働者派遣法の3法を改正し、2019年度の施行を目指すほか、その前段として、「不合理な賃金格差」の事例を示すガイドラインを年内にも策定し、法改正までの間、各企業への自主的な努力を促す考えだ。

   長時間労働の是正では、労使で協定(36協定)を結べば残業時間を事実上、無制限に延ばせることが男性の育児参加や女性の社会進出が進まない理由の一つとされることから、政府は残業時間に一定の上限規制を設ける方針だ。

「脱時間給」盛り込んだ労働基準法改正案との整合性

   一方、労働時間ではなく仕事の成果に給料を支払う「脱時間給制度」を盛り込んだ労働基準法改正案も国会に提出されている。ほとんど審議されず1年半たなざらしが続き、今臨時国会でも成立は見送られる見通しだが、そもそも、長時間労働是正で残業時間を規制しようという流れと、脱時間給の矛盾も指摘され、「働き方改革」の全体像の中でどう整合させるかが問われることになる。

   日本の雇用慣行が大きく崩れかねないことには、労使双方に警戒感を共有するのが実態で、労働側は一般論として同一労働同一賃金などは歓迎するものの、「政府の本当の狙いは、解雇規制緩和など、労働問題の『本丸』に切り込むこと」(野党筋)との警戒感が根強く、連合の神津会長は「法律をつくる前に、(労使代表半々の労働政策審議会など)審議会できっちり詰める必要がある」と、官邸主導の制度改正を牽制する。

   経済界は総論では賛成だが、規制強化による業務への支障が出ることを懸念。経団連の榊原会長は「労働者の保護と業務の継続性の両面から検討する必要がある」と語る。政府が、当面、労働側が望む労働条件の改善に軸足を置いていると警戒する声もあり、「当初めざした生産性の向上やGDP拡大を後回しにしているのでは」(経済団体関係者)との不満も聞こえる。

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