ホンダとヤマハ発動機が排気量50ccスクーターの国内向け生産、開発などで提携することになりそうだ。かつて「HY戦争」と呼ばれるほど激しい二輪車の販売合戦を繰り広げたライバル同士だが、縮小する国内二輪車市場への危機感は強く、タッグを組むことで効率化を進める考えだ。両社が2016年10月5日に東京都内で記者会見し、提携の検討を始めたことを発表した。
主な提携内容は、ヤマハ発が販売する「ジョグ」「ビーノ」の生産を2018年にも委託し、ホンダは自社の「タクト」「ジョルノ」をベースにしてヤマハ発に提供する。宅配用スクーターの次期モデルの共同開発や、電動スクーターの普及に向けても協力する方針だ。50CC以外の二輪車で提携しない。17年3月の正式契約を目指す。
「今はしこりなどない」
両社は1980年前後に「HY戦争」と呼ばれる大幅値引きによる乱売合戦を展開し、今でもホンダが国内トップシェアを誇り、2位にヤマハ発が続くライバル同士。提携検討を発表した記者会見では、「過去に激しい競争があったのは事実だが、今はしこりなどない」(ホンダの青山真二取締役)と強調した。提携はヤマハ発側から持ちかけたという。
ただ、当時を知る中高年にとって、今回の発表は「二輪車を巡る経営環境の激変ぶりを痛感させられた」(関係者)ほどのニュースだ。
二輪車市場は縮小傾向が続いており、特に50cc以下の国内販売台数は、1982年の278万台をピークに2015年には1割以下の19万台にまで減少した。「軽自動車、電動自転車の販売が拡大した」(青山氏)ため。さらに安全基準や排ガス規制が強化されるなど国内の二輪車市場を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ。
3位スズキの動向は
こうした規制強化に、両社は「50ccの事業を継続するのは厳しい」(ヤマハ発の渡部克明取締役)と判断し、タッグを組んで開発や生産の効率化を進め、競争力の確保に努める考えだ。提携が実現すれば、ヤマハ発は世界で好調な中・大型二輪車へと経営資源を集中させ、将来的には50ccの生産から撤退する。一方のホンダにとってはスクーターの生産を担うことになる熊本製作所の稼働率の向上につながるというわけだ。
ホンダ、ヤマハ発の提携検討入りで、今後の焦点となるのは両社以外で50ccスクーターを生産するシェア3位のスズキの動向だ。このまま市場縮小に歯止めがかからないようなら、スズキも含め、3社の事業見直しや提携が加速する可能性がある。