TPP優先姿勢の影響か
発効が早まって問題になるのが、11月7~18日にモロッコで開くCOP22の期間中に批准国が開く「第1回締約国会議(CMA1)」だ。ここで、協定に実効性を持たせる具体的なルール作りの議論が始まるが、批准効力の発生は国連に提出してから30日後のため、日本がCMA1に批准国として参加できる提出期限は10月19日。国会では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認の議論が衆院で始まっているため、パリ協定批准案は参院から先に審議するが、それでもCOP22が開幕する11月7日までの承認を目指すのが精いっぱいで、CAM1に批准国として参加するのは絶望的だ。CAM1には未批准でもオブザーバーとして参加はできるが、議決権はもちろん、発言権もない。会議では削減目標の条件や目標未達の際の対処策などが議論になる見通しだが、日本の意に沿わない場合も異議は表明できない。
安倍晋三政権の誤算はどこから来たのか。「読み誤り」は夏前からで、オバマ大統領が5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言に「2016年中の発効」と盛り込ませれば、中国も9月の杭州での20か国・地域(G20)首脳会議の議題でパリ協定を重視。それでも、米中だけなら年内発効はないと政府も高をくくっていた。雲行きが怪しくなってきたのが9月末に排出量4位のインドが10月批准を表明したあたりから。そして、想定外のEU一括批准で「外交的な失敗」は決定的になった。
読み違いの原因はTPP優先の安倍政権の方針にあるとの見方が強い。臨時国会に向け、自衛隊と米軍の物資融通を広げる改定物品役務相互提供協定(ACSA)を含めた案件の中で、政権の優先順位は、「1にも2にもTPPがまずあり、パリ協定は最後」(経済産業省筋)だった。「アベノミクスの『金融政策』への過大な依存の弊害が明らかになる中、補正予算による財政出動はあるが、経済界から求められる構造改革に、政権としてアピールできるネタはTPPぐらいしかない状況」(全国紙経済部デスク)という事情があったのだ。安倍首相が今国会の所信表明演説でパリ協定に触れなかったのは、官邸の関心の低さを示している。
新聞各紙の紙面には、「批准遅れは恥ずかしい」(「毎日」10月7日社説)、「出遅れ危機の大失態」(「朝日」10日社説)、「官邸主導の盲点 米中の動き軽視」(「日経」10日2面解説記事)などと対応の遅れを批判する声があふれた。安倍政権支持の論調が目立つ「読売」も、社説(10月6日)は「排出削減の取り組みを着実に」と題して早期発効歓迎に力点を置いたものの、7日の2面の解説記事では「日本後手に」「ルール作り主導困難」、12日2面でも「置き去り懸念 初回会議参加できず」といった見出しを並べ、政府の対応の遅れの問題点を指摘している。