夫が亡くなった後に「死後離婚」の手続きをする女性が増えているそうだ。いやな姑の面倒をみずにすむし、夫と同じ墓に入らなくてもいい。遺族年金や遺産相続はしっかり受け取ることができて、いいことずくめ。
最近、テレビの情報番組や女性向け投稿サイトなどで盛んに取り上げられている。「死後離婚」って、どうすればできるの?
「鬼嫁」と呼ばれても夫の親族と縁を切るメリットは
2016年の前半だけでも「死後離婚」を取り上げた番組は多い。TBS系「報道LIVE あさチャン! サタデー」(1月16日放送)、フジテレビ系「ノンストップ!」(2月4日)、同「バイキング」(3月3日)......。また、女性向け投稿サイトでも「発言小町」(2016年1月17日付)が「死後離婚ってどうなんでしょう...」、ママさん向けサイト「パピマミ」(2016年9月28日付)が「姑の面倒なんてみるか!『死後離婚』したがる女性のシビアな本音」を特集した。
それらの内容を紹介する前に断わっておくと、「死後離婚」という言葉はメディアの造語で、法律上は存在しない。夫婦の婚姻関係は民法728条により、どちらかが死亡した時点で終了し、『離婚届』を出す必要はない。では、「死後離婚」とは何かというと、死亡した夫の親族(義父母・兄弟など)と縁を切ることをいう。夫の死後も夫の親族と「姻族(いんぞく)関係」が継続されるから、それを解消するために市町村役場に「姻族関係終了届」を提出するのだ。
それが法律上、どんなメリットがあるのだろうか。弁護士・川井ももさんののウェブサイト「ちょっとした法律のまめ知識 ピーチ法律事務所」(2015年6月10日付)の「夫の死後~夫の親族と付き合いを絶ちたい!」では、現在末期がんに侵されている夫がいる女性・玲さんの例をあげ、「姻族関係終了届」についてこう説明している(要約抜粋)。
「玲さんは、夫の死後、折り合いの悪い義母の面倒など見たくありません。ひとり娘と暮らし、夫の親族とは縁を切り、墓参りや法要に出るつもりもありません。そのためには夫の死後に『姻族関係終了届』を出すことで、夫の親族と姻族関係を終わらせることができます。相手の親族の同意は不要です。これに対し、義父母の方から玲さんとの親族関係を終了させることは認められていません。その後は義父母の扶養義務がなくなります。夫の親族から『鬼嫁』とそしられるかもしれませんが、『聞かない』『顔を出さない』『連絡をしない』と、徹底して関わらないことができます」
つまり、妻側からの一方的に申し出によって夫の親族と縁を切れるわけだ。それ以外に法律上の要点を整理すると、こうなる。
(1)姻族関係終了届が受理されると、夫の親族と姻族関係が終了した旨を戸籍に記載される。逆にこの届を出さないと、もし再婚した後も前夫の親族との関係がずっと続くことになる。
(2)姻族関係終了によって相続人(遺族たる妻)の地位が消えるわけではないので、遺産の相続や年金の受給に問題はない。
(3)ただし、子どもがいる場合は、子どもと義父母との親族関係(孫と祖父母の関係)は消えないので、その両者間に扶養義務は残る。
(4)将来、相続が行なわれ、子どもが相続人になった場合も姻族関係終了届が子どもの相続権に不利な影響を及ぼすことはない。