「将棋界の信頼を失いかねない」「恐れていた事が事件になった」――。日本将棋連盟が2016年10月12日に明らかにした、三浦弘行九段(42)の「カンニング疑惑」が、棋界関係者の間でも波紋を広げている。
三浦氏が不正を否定していることもあり、プロ棋士の間では「ほぼ白のグレーだと思います」「証拠はないのですね」などと慎重論が目立つ。その一方で、「個人的には1億%クロ」「二度と戦う気がしない」と暴露する棋士も出ており、見解は大きく分かれている。
三浦氏「疑念を持たれたままでは対局できない」
いったいどういう経緯で、三浦氏に「疑惑の目」が向けられることになったのか。将棋連盟の広報担当者は13日のJ-CASTニュースの取材に対し、
「(三浦氏の)離席回数があまりに多かったため、過去の複数の対戦相手から不正を疑う声が上がっていた」
と説明する。また、棋士の間では7月頃から「スマホを使った不正を一部の棋士がやっている」という噂が広がっていた。ただ、そのときは具体的に三浦氏の名前が出ていたわけではなかったという。
こうした状況を受け、連盟は10月11日に三浦氏に聞き取り調査を実施。連盟は調査にあたって資料を作成しており、その中には、将棋ソフトが示す最善手と三浦氏の手の「一致率の高さ」を指摘した箇所もあるという。
調査で三浦氏は、離席の多さについて「別室で体を休めていただけ」と説明。将棋ソフトでの不正を否定した上で、
「疑念を持たれたままでは対局できない」
として休場を申し入れたという。だが、三浦氏からは期日の12日15時までに休場届の提出がなかったため、連盟は12月31日まで全公式戦の出場停止処分を下すことになった。
三浦氏は、10月15日に開幕するタイトル戦「竜王戦」の挑戦者だった。今回の処分を受け、挑戦者決定戦で三浦氏に敗れた丸山忠久九段(46)が代わりに出場することが発表されている。連盟の広報担当者によれば、タイトル戦の直前に出場者が変わることは「今回が初めての事態」だという。
一方の三浦氏は新聞各紙の取材に対し、「やましいことは何もしていない」などと改めて不正を否定。今後の対応については、弁護士と相談中だとしていた。
「連盟の決定には個人的には賛成しかねます」
7大タイトルの獲得歴もある一流棋士に浮上した「カンニング疑惑」は、将棋ファンだけではなく、当のプロ棋士にも大きな衝撃を与えたようだ。12日から13日にかけて、数多くの棋士がツイッターで騒動に言及している。
将棋連盟の理事経験もある田中寅彦九段(59)は12日、「恐れていた事が事件になった」と一言。大平武洋六段(39)は12日、
「(三浦九段の不正疑惑は)自分の意見だけで言えば、ほぼ白のグレーだと思います」
と表明。また、上野裕和五段(39)も「各社の報道を読む限り、証拠はないのですね」と言及している。そのほか、三浦氏に代わって竜王戦に臨むことになった丸山氏も、
「日本将棋連盟の決定には個人的には賛成しかねます」
とのコメントを発表している。
このように棋士の中では慎重な意見が大半を占める一方で、三浦氏の不正を事実だと指摘する棋士も現れた。橋本崇載八段(33)は13日に、
「ファンには酷な知らせと思うが、個人的にも1億%クロだと思っている。奴が除名になるかどうかは知らないけど、俺は二度と戦う気しない。(中略)最悪の形になり、ただただ残念だ。これでも潔白を信じるという人はどうぞご自由に」
とツイート。続く投稿では、連盟の対応について「タイトル戦開催まで数日というギリギリのタイミングでよく英断したと思う」としていた(両ツイートとも、13日19時時点で削除済み)。
なお、対局中の棋士の「カンニング」をめぐっては、将棋連盟は10月5日にも「スマートフォンなどの電子機器の使用禁止」「対局場からの外出制限」の2点を規則に追加すると発表したばかりだった。
このとき、連盟担当者はJ-CASTニュースの取材に対し、「過去に棋士の不正が発覚したことはありません」とした上で、
「棋士が不正をしているなどという疑惑を一掃したい」
と規制導入について説明していた。