国内では批評家・文壇から厳しい言葉
現代史と正面から向き合う社会性のある作品。あるいは圧政と闘う文学――。アカデミーの会員たちが「重厚さ」を好むのは、ノーベル文学賞の伝統と、そうした伝統を重んじる審査員の年齢も影響しているのではないかと見られてきた。
毎日新聞の藤原記者は、スウェーデンの文化ジャーナリスト、クリステル・デュークさん(83)にも取材している。それによると、現在のアカデミー会員は実働16人。平均年齢は69.6歳。まだ年齢は高いが、かつて「老人クラブ」と言われていた時代よりは若返った。この12月には72年生まれの女性作家も入る予定で、「好み」が大きく変わる予感があるという。
朝日新聞の10月6日の記事によると、アカデミーの選考では、世界中の作家団体や過去の受賞者から推薦を募って対象者リストを作り、候補者を絞り込む。そこで気になるのが、10月2日の朝日新聞「GLOBE」の記事だ。
「不安な世界をハルキが救う」という特集の中で、担当の太田啓之記者は、「世界的なベストセラー作家としての地位を確立した村上だが、国内では批評家・文壇から厳しい言葉を浴びてきた」と、「内なるハルキ批判」について紹介している。
ここで批判者として登場するのは、作家・評論家で元東大総長の蓮實重彦さんや日本を代表する評論家の柄谷行人さん。アカデミー側が事前に、内々にヒヤリングしているかもしれない超大物なので、穏やかではない。過去の受賞者の大江健三郎さんが、村上さんをどう評価しているのかなども気になるが、選考過程は非公開なので、わからない。
同じ特集の中では、村上さんが米国で、敏腕の出版代理人と組んで声価を上げ、ベストセラーを連発していったことも明かされている。このあたりも、「商業主義的な作家」とみなされ、アカデミーの「重厚好み」とはズレがあるかもしれない。
もちろん特集では、肯定的な評価も多数紹介している。ナポリ東洋大の教授として日本の近現代文学を研究し、イタリア文化会館東京館長を務めるジョルジョ・アミトラーノさんは、「村上は世界のどの作家の追従も許さないほど、現代という時代の本質をつかみ取っている」と断言している。
不安な時代をどう生きるか――。ポップな文体で重いテーマを語り、ドストエフスキーを敬愛していることでも知られる村上さん。その真価がアカデミーに認められるのはいつになるのか。毎日新聞の記事で、アカデミーの若返りを指摘したスウェーデンのクリステル・デュークさんは、村上氏が「近い将来、取る可能性は十分ある」と見ており、いましばらく待つほかないようだ。