子どもの肥満が問題になっているが、なかでも食べ盛りの思春期は一番太りやすい時期だ。
ところが、原因は思春期にモリモリ食べるからだけではなかった。15歳の頃だけ、体の生理機能が太りやすい体質に劇的に変化することが最新研究でわかった。
基礎代謝カロリーが10歳児より1食分も減る
日本小児内分泌学会のウェブサイトの「子どもの肥満」をみると、「成人肥満」につながる原因の70~80%は「思春期肥満」が占めており、「体格が形成されると同時に生活習慣が決まってしまうため、肥満が定着して元に戻すのが大変難しくなります」と指摘している。そして、思春期肥満の原因を、「摂取エネルギーが消費エネルギーを上回っているため。つまり、食事・おやつなどの過剰摂取、運動不足などによって起こるものがほとんど」と書いている。
こうした見方が一般的だが、実は、それ以上に体質の変化に秘密があったとする研究をまとめたのは英国エクセター大学医学部のテレンス・ウイルキン教授らのチームだ。国際肥満学専門誌「International Journal of Obesity」(電子版)の2016年9月8日号に発表した。
エクセター大学の同日付プレスリリースによると、研究チームは279人の子どもたちを対象に、5~16歳まで12年間にわたり体の基礎代謝量の変化を調べた。基礎代謝量とは、特に体を動かさなくても消費するカロリーのことだ。体は睡眠中も心臓や肺、胃、大腸、肝臓、大脳など様々な臓器が生命維持のために動いており、エネルギーを使っている。基礎代謝量が多い人ほど、エネルギーを燃焼させる効率が高く、太りにくい。基礎代謝量は成人男性が約1500キロカロリー、女性が約1200キロカロリーで、16~18歳頃がピークといわれる。
半年ごとに子どもたちの身長、体重を測り、血液サンプルを採取し体組成、代謝量、身体活動量を調べた。また、子どもたちを密封された室内で寝かせ、呼吸から酸素消費量を測定した。消費酸素量がわかると安静時の消費カロリー(=基礎代謝量)がわかるからだ。
その結果、驚くような新事実がわかった。子どもたちの基礎代謝量は成長とともに増えていったが、15歳頃にガクンと少なくなった。10歳時に比べ、1日あたり400~500キロカロリー(平均約450キロカロリー)も減少した。そして、16歳になると再び上昇に転じたという。
飢餓の人類史が思春期を生き延びさせるよう進化
16~18歳頃の基礎代謝量は、男子で約1600キロカロリー、女子で約1300キロカロリーだから、約450キロカロリーはその4分の1以上になる。また、約450キロカロリーといえば、ご飯1膳の約2杯分に相当する。成長盛りの子どもはお腹いっぱい食べる必要があるはずなのに、なぜ、15歳頃にだけ急激に基礎代謝量が減るのだろうか。
ウイルキン教授は、プレスリリースの中で、「私たちにとっても、この事実は予想外の結果です。あくまで推測ですが、思春期は十分な成長のために非常に重要な時期です。人間は何万年もかけ、食べ物がない飢餓状況に備えて基礎代謝量を抑え、成長に必要なカロリーを温存するよう体を進化させてきたのではないでしょうか」と語っている。つまり、15歳頃にだけ、生命維持に必要なエネルギーを最小限に抑え、浮かせたエネルギーを成長に回せるよう体の生理機能が変化するというわけだ。
ただし、現在は食べ物がありあまるほどあり、しかも自由に買える。15歳の若者の基礎代謝量が1食分少ないことが裏目に出ている。その分、エネルギーの燃焼効率が悪くなり、もっとも食べ盛りの時期に一番太りやすい体質になってしまうからだ。
今回の研究について、米国肥満学会のスコット・カーン医師は、健康医療サイト「Health Day」(2016年9月29日付)の取材に対しこう語っている。
「驚きました。実際に15歳前後の基礎代謝量が低くなるとすると、その年代での十分な運動や食事がますます重要になってきます。ほとんどの子がいつもお腹をすかせており、いつでも高カロリーのスナック菓子を買えるお金をポケットに持っているからです。親が栄養バランスのよい食品をキッチンにストックし、健康的な習慣を早いうちから身につけさせることが何より大切です」