横浜市にある注文家具メーカー「秋山木工」のWikipediaで一時、編集合戦が起きた。
きっかけは、同社社長が「SAPIO」2016年11月号で独自の職人研修制度について語ったことだ。ネット版記事が10月10日に公開されると、「労働基準法違反ではないか」「ブラックすぎる」などと物議を醸し、Wikipediaページまで荒れてしまった。
「『ブラック企業』などと言いたい人は言えばいい」
同社では家具職人見習いの若者を「丁稚(でっち)」と位置付け、現代の「徒弟制度」とも言える厳しい人材育成を行っている。丁稚たちは5年間(丁稚見習い1年、丁稚4年)にわたって尞生活を送りながら、基本的な生活習慣から本格的な木工技術までを身に着ける。
5時起床、23時就寝。入社後は男女問わず全員丸刈りになる。携帯電話・パソコンは禁止で、私的な連絡手段は手紙のみ。休みは盆と正月以外になく、恋愛は「絶対禁止」だ。
社長の秋山利輝さんは「一流の職人になるためには『人間性が第一』」との考えを持っており、SAPIOのインタビュー記事では
「ウチは日本一厳しい会社と言われるけど、僕は日本一優しいと思っている」
「『ブラック企業』などと言いたい人は言えばいいけど、弟子をスターにしたい思いは、僕に勝てるはずがない」
などと語っている。
ちなみに「リクナビ2017」で同社の採用ページを見てみると、「指物家具職人」の基本給は15万円、「家具製作管理」の基本給は18万円(大卒は20万円)と書かれている。
「誹謗中傷の記載」指摘も
同社の制度は過去に「ガイアの夜明け」(テレビ東京)や「モーニングバード!」(テレビ朝日)などでも取り上げられているが、SAPIOの記事で初めて知ったという人も少なくなかったようだ。
ネット版記事が公開されると、ツイッター上には「労働基準法違反ではないか」「ブラックすぎる」といった指摘が相次いだ。日本労働弁護団事務局長の嶋﨑量氏も同日、記事のURLとともに「こういった企業風土を礼賛する報道は、本当に止めて欲しい」とツイートした。
記事をめぐる余波はWikipediaにまで及んだ。10日以降、秋山木工のページには、「労働基準法第34条ならびに第35条に明確に違反しているが、現在に至るまで行政処分等は行われていない」と記述が加えられたほか、文中の「社員研修」が「奴隷調教」に変えられたり、「事業内容」が「うんちの製造」となったりと、さまざまな加筆がなされたのだ。
一時は内容を差し戻す利用者との編集合戦に発展したが、ある利用者が「当該企業に対する誹謗中傷の記載」があるとして削除を依頼したことにより、11日午後に一連の関連版は削除された。