長時間残業「自慢合戦」の無意味 電通新人の自殺で直視すべき問題

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   大手広告代理店「電通」の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)の自殺が過労によるものだったとして労災認定された。インターネット上では高橋さんの「月残業105時間」という点に注目が集まっている。

   しかし、単純な労働時間の長さだけを問題とする見方には疑問の声も目立つ。働き方の専門家は、精神論で片づけられがちな「日本の問題」の存在を指摘する。

  • 過労死をいかに防ぐか(画像はイメージ)
    過労死をいかに防ぐか(画像はイメージ)
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本採用後の時間外労働は月105時間

   高橋さんの母親と代理人弁護士は2016年10月7日、記者会見を開いた。会見の説明などによると、高橋さんは東大文学部を卒業後、2015年4月に入社。インターネット広告を担当していた。業務量が大幅に増えたのは本採用となった10月以降で、1か月(10月9日~11月7日)の時間外労働は約105時間にのぼったという。12月25日、住んでいた東京都内の社宅から投身自殺した。

   労基署は残業時間が長いことや、うつ病と推定される状態にあったことなどから、16年9月30日付で高橋さんの労災を認定した。

   高橋さんが入社した電通に限らず、大手広告業界では若手社員の長時間残業が少なくないようだ。博報堂出身でネットニュース編集者の中川淳一郎さんは10月8日、自身の体験をもとに、一般論としてその実態をブログで紹介している。例えば、

「『最後まで考え抜いた』ことが重要であり(中略)『最後まで頑張る(悪あがきをする)』ことは、当然残業時間の激増を意味する」
「広告業界のオッサンは、いかに長時間労働をしたかや、寝なかったかを自慢し、『寝ない=エラい』『残業長い=有能』といった判断をします」

といった点を指摘した。こうした暗黙のルールや価値観に縛られ、若手社員は「結果的に本来はそこにいる必要もないのに徹夜に付き合うこととなる」というのだ。

   ただ高橋さんの自殺に関していえば、単に広告業界ならではの長時間残業だけが原因ではなさそうだ。報道によると、高橋さんは上司から「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」「目が充血したまま出勤するな」などと言われていたという。

「職場で死にたくなるという問題が起こることを直視すべき」

   本人のツイッターでも

「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」
「男性上司から女子力がないだのなんだのと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である」

などと、社内でのパワハラをうかがわせる内容がつづられていた。

   労働社会学やキャリア論が専門の常見陽平さん(千葉商科大学国際教養学部専任講師)は9日、自身のブログで「私は今回の事件は、電通や大手広告代理店の『特殊性』に答を求めてはいけないと考えている。これは、大手、中堅・中小を問わず、日本企業が抱える『特殊性』である」とし、

「誰もが成果や出世の競争をさせられ、職務の範囲も明確ではない。労使関係の利害関係を調整する機能が十分ではない。これが日本の問題である。この手の問題は精神論で語られがちだ。なぜ、このような精神になってしまうのかを問わなくてはならない」

と問題提起した。

   高橋さんの報道後、ツイッター上では「月残業時間105時間」という部分に注目が集まり、「俺150時間オーバーを経験してるんだけど」「毎月残業代なしで月150時間以上残業してる」と、自らの残業時間と比較する声がいくつも上がった。

   7日には、武蔵野大学の長谷川秀夫教授がネットニュースサービス「NewsPicks」に「残業時間が100時間を越えたぐらいで自殺するのは情けない」と投稿。大いに批判を浴びてその後、謝罪に追い込まれた。

   常見さんは、こうした残業時間ばかり注目される風潮について「『私はもっと残業している』とか『そんなことはどこにでもある』という語りをするのもナンセンスだ」とし、「労働時間が何時間であれ、職場で死にたくなるという問題が起こることを直視しなくてはならない」と説いた。

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