厚生労働省が、トリクロサンやトリクロカルバンなど19種類の殺菌作用を有する成分が含まれる「薬用石鹸」(医薬部外品)を国内で製造・販売しているメーカーに対して、1年以内に代替品への切り替えを求めている。
2016年9月、米食品医薬品局(FDA)が同じ成分が含まれている抗菌石鹸について、「有効性や安全性の科学的根拠はない」との見解を示し、販売を禁止したことを受けた措置で、9月30日付で日本化粧品工業連合会や日本石鹸洗剤工業会を通じてメーカー(会員企業)に切り替えを促した。
国内の薬用石鹸、流通ベースでは50~100品目ほど
米食品医薬品局(FDA)は固形石鹸や、液状や泡状のハンドソープなどに広く含まれる、トリクロサンやトリクロカルバンなどの19種類の成分を一つ以上含む、すべての「抗菌(薬用)石鹸」の販売を禁止することを、9月2日に明らかにした。薬用石鹸が、ふつうの石鹸と比べて優れた殺菌効果があるとはいえないばかりか、一部のデータからは長期に使用した場合の皮膚がんや甲状腺への影響を示唆しているという。
メーカーは1年以内に商品を見直すか、商品を市場から撤去しなければならない。
こうしたFDAの判断を受けて、日本でも厚生労働省が「見直し」に動いた。最近は薬用石鹸も、固形石鹸から液状や泡状のハンドソープ、ボディソープ、洗顔料など、さまざまな種類の商品が販売されている。肌荒れを気にする女性や、子どもや高齢者の感染症予防への効果が見込まれ、ふつうの石鹸よりも高い価格ながらも売れている。
一般に、国内で流通している薬用石鹸は医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づく「医薬部外品」にあたる。医学部外品であれば、殺菌や消毒、抗菌などの効能をうたえるが、製造・販売には厚生労働大臣の承認が必要になる。また、薬用石鹸の中には今回、米国で販売禁止になった「トリクロサン」や「トリクロカルバン」などの成分が含まれている商品もある。
厚労省によると、薬用石鹸は、国内ではこれまで約800品目が承認されている。ただ、薬用石鹸を流通ベースでみると、「50~100品目程度ではないか」という。「800品目のうち、新商品などの入れ替えで、すでに流通していない商品がほとんどです。しかも、今回公表された19種類の成分のうち、実際に使用されている成分は2種類くらいで、シェアでみても1割程度とみています」と話す。
厚労省は「現状で健康被害は報告されていません」としている。その一方で、19の成分を含む薬用石鹸の流通状況や商品の切り替え予定などを現在調査中で、その結果を踏まえ、今後は薬事・食品衛生審議会に報告し、必要な措置について検討していく予定という。
「殺菌効果は否定していない」
そうしたなか、厚生労働省は「報道が一人歩きしていると感じています」と、漏らす。医療機関で使われている消毒薬などが今回の規制の対象外となっているように、「米FDAは、家庭用(の抗菌石鹸)で健康な人への感染症リスクを低減するとの根拠となる資料が(メーカーなどから)示されなかったとしています。つまり、家庭での感染症予防の効果には疑問が残るが、殺菌効果を否定しているわけでも、殺菌効果をうたう商品がなくすわけでもありません」と説明する。
そのため、厚労省もこれまで承認している薬用石鹸については、「殺菌効果を否定するものではありませんし、問題ありません」と話す。そのうえで、多くの薬用石鹸に含まれている「トリクロサン」や「トリクロカルバン」などの成分を使用している商品の切り替えは、「業界団体が自主的に促していることもあり、その取り組みを後押しするものです」という。メーカーには、1年以内に代替品の承認申請を求めるとともに、その際の承認審査を迅速に行うことを通知した。
一方、メーカーもトリクロサンなどの成分の使用を減らしはじめている。トリクロサンやトリクロカルバンは、薬用石鹸のほか、うがい薬や洗顔料、手指の消毒剤、練り歯磨き、化粧品など、一般家庭に置かれ、広く使われている殺菌成分だ。
日本初の薬用石鹸、「ミューズ」を販売するレキットベンキーザー・ジャパンは、ミューズ固形石鹸の成分をトリクロカルバンからサリチル酸に切り替えると、9月26日に発表した。サリチル酸は米FDAが公表した19の成分には含まれず、現在市販されている液状や泡状のミューズで使用している成分にあたる。
同社は、「現在までに健康被害は確認されておらず、トリクロカルバンの使用にあたり、安全性・有効性には問題がないことを確認しています」としている。今回の切り替えは、「より安心して使ってもらうため」という。