遊園地で人気ナンバーワンのジェットコースターに、驚きの健康効果があることがわかった。腎臓結石の小さなものなら、乗っているうちに腎臓が激しく揺さぶられ、自然排出されるというのだ。
米ミシガン大学の研究チームが、米整骨医学会誌「Journal of the American Osteopathic Association」(JAOA)の2016年10月号に発表した。ジェットコースターには喘息(ぜんそく)の症状改善にも役立つという研究もあり、乗る楽しみが増えそうだ。
3回乗ったら石が1個ずつ3個出た
東京大学医学部泌尿器科科学教室のウェブサイトによると、尿路結石(腎臓結石)は、生涯のうちに男性は11人に1人、女性は26人に1人の割合で発症する、よくかかる病気だ。メタボリック症候群などが原因で尿中にカルシウムが増え、結石に成長する。大きくなると尿路に詰まり激痛が走り、外科治療が必要になるが、小さな結石は自然に排出される場合が多いという。
「JAOA」に掲載された論文によると、研究を行なったのは同大のデービッド・ウォーティンジャー教授だ。以前からジェットコースターに乗ると、腎臓結石が自然排出されるという情報があったが、ある患者がジェットコースターに続けて3回乗ったら、そのつど1個ずつ計3個の結石が排出されたと証言したことがきっかけ。その患者は、米フロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールドにある「ビッグサンダー・マウンテン」に乗ったという。
その証言に興味を持ったウォーティンジャー教授は、ディズニー・ワールドの協力を得て、実験を試みた。実際に患者の体内から取り出した、大きさが異なる3種類の結石を用意、腎臓のリアルな模型を作り、その中に結石を埋め込んだ。教授自ら模型を持って「ビッグサンダー・マウンテン」に乗り、振動と衝撃によって結石が腎臓から尿路器官に飛び出すかを確認した。当初はウシかブタの腎臓を使うつもりだったが、ディズニー・ワールドから「遊園地にふさわしくない」と許可されず、シリコン製の精密なモデルを作った。
先頭座席より後部座席の方が効果は大きい
結石の大きさは、4.5立方ミリ、13.5立方ミリ、64.6立方ミリの3個だった。それぞれを埋め込んだ腎臓モデルをバックパックに入れ、腎臓の高さ付近で持ち、20回ずつ乗車した。乗車時間は2分30秒で、先頭座席と最後尾座席に乗り分けて比較した。その結果は次のとおりで、先頭座席より最後尾座席の方が揺さぶりが激しいのか、はるかに効果は高かった(カッコ内は排出された割合)。
(1)4.5立方ミリの結石:先頭座席(12.5%)、最後尾座席(66.7%)
(2)13.5立方ミリの結石:先頭座席(12.5%)、最後尾座席(58.3%)
(3)64.6立方ミリの結石:先頭座席(25.0%)、最後尾座席(66.7%)
この結果について、ウォーティンジャー教授は論文の中でこう語っている。
「米国人の多くは遊園地まで車で数時間の範囲に住んでいます。腎臓結石のある人は、ぜひジェットコースターに乗ることを勧めます。特に妊娠を計画している女性は、腎臓結石に伴う妊娠中の合併症をさけるための様々なサプリを飲む前に、適度な強度のジェットコースターに乗る方がより健康的です」
イグ・ノーベル賞でも「喘息の改善」が話題に
ジェットコースターの健康効果に関しては、人々を笑わせ、考えさせてくれる研究に与えられるイグ・ノーベル賞でも表彰されている。「ジェットコースターに乗ると、喘息が改善する」というオランダ・アムステルダム大学の研究が、2010年にイグ・ノーベル賞の医学賞を受賞した。「ナショナル・ジオグラフィック」(日本語版)の2010年10月4日号によると、同大学のサイモン・リートフェルト博士は喘息への効果についてこう語っている。
「ジェットコースターに乗る前は、喘息患者でなくても、不安や恐怖のマイナス感情により息苦しくなります。ところが乗り終った後は、興奮や高揚感などのプラスの感情ですっかり呼吸が楽になります。それが喘息にもよく、喘息患者たちにいい効果がもたらされました」