ソフトバンク松坂大輔の復活登板(2016年10月2日)は悲惨な結末だった。味方も相手もファンも言葉を失った。「平成の怪物」は立ち直れるのか。
四球、死球、死球、押し出し四球...3連続タイムリー。松坂は楽天戦で8回に救援登板し、1回を3安打、4四死球、5失点。大リーグから日本に戻って初の登板の成績だった。
苦しい感想
「なんとアドバイスしていいのか、分からなかった...」
投手コーチはそう振り返った。いきなり無死満塁。普通ならコーチがマウンドに行って間を置く。予想外の出来とはいえ、実績豊かな投手だけに足が動かなかったのだろうか。
松坂の日本での登板は06年10月7日以来。3648日ぶりだった。
その間、レッドソックスなど大リーグで投げていたことは承知の通り。西武から太平洋を渡ったときは「60億円契約」で大騒ぎされたものである。
仙台での復活登板は惨めだったことは本人も認めている。
「投げられるようになったことが良かった」
苦しい感想だった。試合後、工藤公康監督からこう伝えられたそうである。
「前向きに考えてくれ。自分もかつて同じような結果があった」
3年契約であと1年あり、それが首をつなぎ止めている。監督からは、2軍で調整するように、とも言い渡されたという。ソフトバンクは今季、日本ハムに逆転されたが、クライマックスシリーズ(CS)に出場する。
「ソフトバンクは投手陣が息切れして日本ハムに負けた。監督とすれば松坂の経験を買って、CSのメンバーに、と考えたかもしれない」
評論家の一つの見立てである。
冷たい勝負の世界の風
気になるのは松坂の本格復活である。力で押すピッチングは期待できないだろう。球威は落ちているし、変化球も多彩とはいえない。この秋から来春までにどう新しいスタイルを作るのか。
ソフトバンクは松坂と「3年、12億円」で契約している。投げたのは2シーズンで先日の1イニングだけ。その最大の理由は故障続きということである。5年前に右ヒジをトミー・ジョン手術。昨(15)年8月に右肩手術。投手にとっていずれも致命的とも思われる手術だ。
「これからどうするか考えたい。来年に向かって頑張る」
松坂は決意をそう口にしている。日米でエースだった男のプライドがこのままでは許さないだろう。ファンもカムバックする勇姿を見たいはずである。
俗に「松坂世代」という。松坂を中心に活躍した選手が、皮肉にも次々と戦力外通告を受けている。名前の知られるところでは、ヤクルトの新垣渚、DeNAの久保裕也、長田秀一郎らだ。36歳の秋、松坂らには冷たい勝負の世界の風だろう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)