【女の相談室】「小林麻央ショック」の女性に光 乳がん治療中も赤ちゃんを生める

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   乳がんで闘病中のフリーアナウンサー、小林麻央さん(34)が病気の進行状況を毎日ブログで発信しているが、このニュースは同世代の女性たちに大きな衝撃を与えている。30代の若さでも乳がんになるという重い事実と、もし乳がんになった時に妊娠していたら、どうしようという不安だ。

   現在、女性が第1子を生む平均年齢は30.4歳(2014年・厚生労働省調べ)。30代になると乳がんの発症率は急上昇をはじめ、女性の妊娠年齢と重なってくる。抗がん剤は胎児にダメージを与えると考えられており、子どもの命を取って自分の治療を断念するか、子どもの命をあきらめ自分の治療に専念するか、究極の選択を迫られるからだ。

  • 赤ちゃんを生むことをあきらめるな(写真と本文は関係ありません)
    赤ちゃんを生むことをあきらめるな(写真と本文は関係ありません)
  • 赤ちゃんを生むことをあきらめるな(写真と本文は関係ありません)

赤ちゃんの命か自分の命か、究極の選択は

   この重いテーマに希望を与えたのが、2016年9月29日放送の「おはよう日本」(NHK)の特集「妊娠中の『がん』 迫られる命の選択」だ。番組では、清(せい)有美子記者が38歳の女性カオリさん(仮名)のケースを報告した。

   カオリさんは3年前、妊娠3か月で胸にしこりを発見、乳がんと診断された。医師から思いがけない言葉を聞かされ、「頭が真っ白になった」という。

医師「抗がん剤の治療を続けるので、子どもをあきらめなさい。でないと命の保障はできません」

   やっと授かった子どもをあきらめられないカオリさんは、聖路加国際病院(東京都中央区)で妊娠中のがん治療を行なっていると聞き、最後の望みをかけ受診すると、女性医師がこう声をかけてくれた。

女性医師「おめでとうございます」
カオリさん「(妊娠して)おめでとう、という意味だったのです。ああ、この人が助けてくれると涙が出ました」

   聖路加国際病院のホームページによると、2005年から「ブレスト(胸部)センター」を作り、乳がん専門医、産婦人科医、小児科医、助産師、看護師、薬剤師からソーシャルワーカー、チャプレン(宗教者)まで総勢19の組織がチームを組み、乳がん患者をサポートする体制を組んでいる。できる限り妊婦と胎児の両方の命を救う治療を行ない、これまでに70人の赤ちゃんが誕生した。

帝王切開で生んだ感激の直後「次、がんの摘出です」

   さっそく十数人のスタッフが協議し、カオリさんの治療方針と支援体制を決めた。がんの大きさは3.7センチ、かなり進行していた。転移を防ぐため抗がん剤が欠かせないが、妊娠14週までは胎児に影響があるため、15~30週目の15週間に投与。海外のデータを参考に、より安全な薬剤を使った。32週目以降は分娩期に入るため、抗がん剤投与はやめた。

カオリさん「15週目から抗がん剤治療に入った時、スタッフの方々が『生まれてきたらこうだね』と楽しみな話ばかりしてくれるのが大きかった」

   がんは転移せずに小さくなり、胎児の成長も順調だったので、37週目の臨月に帝王切開で無事2300グラムの赤ちゃんが生まれた。カオリさんは「生まれてくれた! よかった! ウルッときました」と喜んだのもつかのま、「一瞬、赤ちゃんを見た後、『次、がんの摘出に行きます』って感じ」で、すぐさま外科医による乳がん切除の手術室に直行した。

   この素早い医師団の連携により、現在、カオリさんの乳がんも順調に回復、薬の服用もなく、経過観察の状態だ。

「お母さんの命も、子どもの命も救いたい」

   カオリさんの手術を担当した北野敦子医師(現在・国立がん研究センター中央病院勤務)はこう語っている。

北野医師「欧米では妊娠中のがん治療の研究が進み、がんを治療しながら出産する、両立の方法が開発されていますが、日本ではその事実を知らない医療者が多くいます。患者さんにも情報が十分に行き渡っていないので、試みる前に人工中絶してしまうケースが多いです。お母さんの命も子どもの命も救えるという事実を届けたいし、そして救いたい。それが私たちの願いです」

   そんな思いから北野医師らが中心になり、2016年9月16日、国立がんセンターや聖路加国際病院、国立成育医療研究センターなどのがん専門医や産婦人科医らが集まり、妊娠中のがん治療のマニュアル作成を始めるネットワークを作った。2017年のネットワークスタートに向け、相談窓口の設置や母子の長期フォローアップ体制づくりを進めている。

MCの和久田麻由子アナ「こうした動きをもっと早く知っていれば、赤ちゃんをあきらめずにすんだ人が多いと思いますが、日本であまり知られていないのはなぜですか?」
清有美子記者「日本では、がんに詳しい病院には産婦人科医がいなかったり、産婦人科の病院にはがん専門医がいなかったりと、横の連携がうまくいっていません。また、医師の間に、抗がん剤は妊娠期間を通じて使用できないという認識が根強く残っていると指摘する専門家もいます」

   番組では、北野医師らが立ち上げたネットワークの相談窓口の電話番号を紹介した。2017年に正式にネットワークがスタートするが、それまでの窓口は次のとおりで、患者の症状に応じ対応できる医療機関を紹介するという。

   03-5550-7098(聖路加国際病院がん相談支援室)

   また、これとは別に「聖路加国際病院ブレストセンター」にもウェブサイトがあり、乳がん患者に対するチーム医療の現状やサポートプログラム、様々な乳がんに関する情報を紹介している。

姉妹サイト